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リックと黄金の神鳥  作者: sick
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リックと黄金の神鳥Ⅳ

 ここ数日はレイラがリックに本気で戦闘のいろはを叩き込んでいる。


 ここまでの段階に来ると度々顔を見せていたショコラは王都の仕事が忙しく王都の自宅へ帰宅。ユンとマミに加えて暇になったエスキが合流し、蒼い髪の男とエウリュアレを含めてただレイラとリックの戦闘を眺める日々だ。


 エイリーは日中、散歩に出掛けると夜までには帰ってきて何かをしている。獲物を仕留めて食料を大量に持って帰ってきてはエウリュアレやマミにお願いして焼いて貰っているようだ。


 リックの編み出した【封牢結界】は防御をする上では最適解となっており、誰かや何かを拘束する技としては最上のものだ。


 ただ【幻影身】を使うレイラを【封牢結界】の中に閉じ込めることは難しく、互いに斬り合いリックは波動剣を放つだけになっている。


 レイラとしてはリックに物足りなさを感じているみたいだ。


「【封牢結界】は確かに強固で力強いが、イマイチ決め手に欠けるねえ」


 レイラは強い、それは【幻影身】を使わなくても同じことだ。


 リックの波動剣はレイラから見透かされていて、その全てをレイラは避けきることが出来ている。


 波動剣はその性質上、一度放てば二度目の斬撃が、二度目の斬撃の後に三度目の斬撃が飛ぶ。


 それだけで強いはずなのにレイラはそれを単純な力と剣圧で捌ききってしまう。


 リックは為す統べなくレイラに双剣で斬りかかり、近接戦闘に持ち込まなければならず、そこでレイラの単純な強さに軍配が上がる。


 そうして倒れ込むリックに対してレイラは目の前に座り込んで言う。


「リック、この世界にはまだ私より強い冒険者がたくさんいる」


 リックにとって絶望的な言葉だ、困ったことにレイラを越えられる気がしない。


「しかしまあ、【封牢結界】だけは私にも壊せない」


 そう呟いたレイラに対して嬉々としてリックは顔を上げる。


「まあ、倒せなくてもいざとなったらエイリーが何とかしてくれるだろう」


 レイラの視線の先にエイリーが居る。


 それほどまでに評価されるエイリーの強さは底知れない。


 リックがいたずらにエイリーに対して【封牢結界】を使う。


 エイリーはびっくりしてリックを見ると、そこには悪戯に笑うリックの姿がある。


 声も届かぬ【封牢結界】の中でエイリーが喋るが、音は外に漏れることがない。


 エイリーは右足の爪先でちょいと空間をひっかくと、【封牢結界】の中に時空の歪みが産まれる。


 その時空を移動してエイリーがリックの後ろに立って言う。


「リックの【封牢結界】はボクには効かないよ、時間を止めたり空間を固定しない限りはね」


「むう」


 思い付いたリックがエイリーに対して再度【封牢結界】を使う。


 皆が見ている中でエイリーは得意気になった顔で【封牢結界】の中、動きを止めた。


「え」


 近くで見ていたレイラが思わず驚きの声を上げる。


 エイリーが拘束されている。


 その次の瞬間、エイリーは【封牢結界】を自力で破り、リックに言う。


「なかなかやる」


「驚いた」


 遠くで見ていた蒼い髪の男がリックに近寄ってそう言葉を掛ける。


 傍で見ていたレイラも頷き、リックに言う。


「エイリーの動きを止められる人間なんてこの世にいない。リック、修行は終わりだ」


「え、でもまだ私、レイラに勝ててない・・・・」


 リックがそう言うと、蒼い髪の男はリックに言う。


「エイリーはこの世界の外に落ちた存在なんだ。そこには“無限”が広がっていて、エイリーの力はその無限から流れてくる力なんだ」


「え、えーとえーと?」


 リックが分からない顔をしていると、レイラが言う。


「つまりリックはこの世界で唯一、そのエイリーの無限に対応できる術を持っているということになる。エイリーを止めるなんてこの世界の神ですら不可能だろう」


「とにかく修行は終わりだ、ようやくこれで安心して死ねるな」


 蒼い髪の男がそう言うと、それを聞いたレイラも声を上げて笑う。完全に二人の世界だ。


「お疲れ様、リック」


 分からないままのリックにマミが声を掛ける。


「マミさん・・・ちょっと何が起きたのか分かんない・・・・」


 不服そうなエイリーがリックを改めて見つめ直し、そうしてリックに対して言う。


「リック、ボクも本気を出すよ」


 エイリーの周囲を何か見えない半透明の膜が包み込んでいる。


 蒼い髪の男がリックに対して大声で声を掛ける。


「リック、本気のエイリーを止めて見せろ!そうでもしないとエイリーは鎮まらん!」


 明らかに脅威だ、エイリーの黄金の羽が光り輝いて誰にも止めることの出来ないほどの力強い衝撃を放っている。


 おそらくエイリーからの最終試練なのだろう。


 リックの【封牢結界】を受ける気でいる自信満々のエイリーを見て、リックは考え付く限りの【封牢結界】を想像する。


「ボクは避けない」


 そう言ったエイリーは黄金の光を放つ、もはや原理すらも分からない超常現象だ。


 リックは本気の【封牢結界】をエイリーに対して剣を振るうことで発動させる。


「【封牢結界】!!!!」


 次の瞬間、リックの【封牢結界】がエイリーを包み込み、光も音も逃さずにその結界内のあらゆる事象を正十二面体の結界内に封印する。


 エイリーはその場から動けず、時間も止まり、空間も固定され、結界の中であらゆる活動を停止させられる。


「これは・・・・」


 結界内で拘束されたエイリーが呟く、破壊には少し時間が掛かるがエイリーならば可能だ。


「ボクに届き得る力だ」


 二分後、エイリーが結界を内側から破壊して現れ、リックに対して無言で目を向ける。


「え、エイリー・・・?」


 リックがそう言って手を差し伸べるとエイリーは頭を下げてリックに自分の頭を撫でさせた。


「あのエイリーがリックを主人と認めたな」


 レイラが蒼い髪の男に耳打ちし、蒼い髪の男はそれに応答し頷いた。


「今日で修行も終わりだ、後はリックに皆の命運を託す。狂化しようものなら殺してくれて構わない、皆も異存はないな?」


 その場に居たレイラ、ユン、マミ、エスキが頷く。


 リックはその日から激しい修行の末に、黒化病の解明の旅に出ることを許された。


 その日は明るいうちから宴会になった。


 合流したエスキが大量の食料と酒を馬車で引いて来ていたので謎の神タイミングに蒼い髪の男は驚いていた。


 夕刻から呼び出されたショコラも加わり、大宴会となって深夜まで続いた。


 明朝になると朝一番にレイラが時計塔街へと帰り、ショコラが王都へと帰り、ユン、マミ、エスキは王都教会へと帰って行った。


 エウリュアレと蒼い髪の男は新しく出来た家に住み、リックとエイリーの帰りを待つ。


 リックはエイリーに荷物を積み、エイリーに乗ってエウリュアレと蒼い髪の男に手を振った。


 出発はしたものの、行き先が決まらない、しかし止まっていられないリックは道を歩くエイリーと相談する。


「どうする?」


「どうしようか」


 リックはかなり焦っている。【封牢結界】という他者を拘束する技が相手を死に至らしめないように、リックの心は皆を殺したくないというのが本心だろう。


 エイリーはリックの行動に任せるし助けもするが、決めることはしない、リックの行動に全てを委ねている。


「エイリーはどうやって強くなったの?」


 リックが唐突に聞く、エイリーは嘘偽りなくリックを乗せたまま歩きながら話す。


「ボクの元々の主人が居なくなった時、悲しみに明け暮れて走ってたら時空の歪みに落ちちゃったんだ。どうしようもなくてもう助からないのかなと思っていたら自由に移動できるようになってた、何故かそこで能力に目覚めた感じだった」


 リックはそれを聞いて「うーん」と悩んでいる。


 悩み抜いた先で手綱を握ったリックがエイリーに言う。


「とりあえずそこから始めようか、エイリーが落ちた場所を出来るだけ思い出せるところまで探してみよう」


「わかった」


 エイリーがそう頷いて地面を蹴って走り出した。


「行き先はどの辺?」


 リックの問いにエイリーは走りながら言う。


「帝国領、帝都周辺」


「帝国かぁ」


 リックの一人旅でも足を運ばなかったキナ臭い場所だ、一番見てない場所なので選択としては最適解かもしれない。


「エイリー、急いで」


 リックのその言葉にエイリーはさらに加速する。


 帝国は王国とはまた別の国だが、ここ最近は同盟締結後で人の往来はかなり多い。


 どの国の人間か証明するものは必要だが、それさえあれば止められたときに提示するだけで越境は容易だ。


 マミに貰った教会の杖と蛇の紋章があれば証明に関しては問題ないらしい。


 かなりの速度で走るエイリーを静止させられれば、その提示も叶うのだが。





 王都の端にある自宅を出て、一時間もしないうちに帝国領へと辿り着いた。


 川を越えて、山を越えて、文字通りエイリーが全て飛び越えて一直線に走った結果だ。距離にして約900㎞、エイリーの蹴りによる加速は飛行機と変わらない速度で空気を蹴りながら進む。その際には前方に空気抵抗を無くすために針のように鋭いバリアを張り、乗り手にも同様に走行時の振動や音を与えない。


 それでもエイリーはまだ本気ではないのだからこの鳥の異常さが伺える。


「人を乗せてこんなに移動したのは久しぶり!色々変わってるんだね!」


 目的地に辿り着いたエイリーが普段ぼーっとしている時には見せない声で言う、この鳥は走るために育てられた種類の鳥だからだ。


「え、ええ、エイリーあなた物凄く足が速いのね」


 リックがそう言って、エイリーから降りて手綱を引く。


「ここが?」


 問い掛けにエイリーは頷いてリックと見下ろす。


「うん、ここがボクが落ちたところ、時空の歪み」


 崖の下には空が広がっていて、大地が欠片のように浮いて停滞している。落ちたと言えばいいのか吸い込まれたと言えばいいのか分からない。


 摩擦のせいか雷が大地を走り続けているが、音はこちらに届くことはない。


 この場所から崖下、いや空に進めばおそらく戻って来れないだろう、そんな場所だ。


「エイリー、ここからよく戻って来れたわね」


 リックがそう言ってエイリーを撫でると、エイリーは説明する。


「自分でもよく分からないんだ、誰かが引っ張ってくれたような、ずっと落ちて行ったような」


 少なからず、このような場所へと足を踏み入れるべきではないことはリックにも理解できる。


「黒化病と同じような不自然さはあるけど、ここが原因ではないみたいね。ここに入るのはやめましょう、エイリー」


 そう言ったリックがエイリーと共に振り返り、戻ろうとした瞬間にエイリーとリックが立っていた足場が崩壊する。


「あ」


 咄嗟にエイリーはリックを背に乗せて移動しようとするが、崩壊した足場と共に吸い込まれていく。


 吸い込まれる方向へと切り返し、エイリーが空間を爪先で引っ掻いてその場所から2㎞離れた場所にリックと共に転移した。


「危ない危ない」


「き、気を付けようね、エイリー」


 この場所は謎だが、それ以上に帰って来れない場所だとリックは判断した。


 旅の目的は黒化病の治療、もしくは消滅だ。


 エイリーは目の前に広がるそれを背に、その場を後にした。





 帝国の帝都の状況はそれほど悪くないもので、近未来的だ。自動車や気球船などがある。リックは蒸気の仕組みも理解はしているが、どれも観たことはない。


 リックはエイリーと人気のない公園へと赴き、いきなり蒼い髪の男とその仲間達が直面していた問題にぶつかってベンチに座っていた。


「手詰まりだ、どうしよう」


 そう言いながらリックは持っていた世界樹の実をエイリーに食べさせる。エイリーはそこまで消耗していないが好物だからとりあえず食べている。


「シックが自身の黒化病で浸蝕した部分をメスで切り取って、帝国の生体研究所で調べさせたこともあったよ」


 食べるエイリーがそう言い、リックはそれに反応する。


「結果は!?」


「原因不明だって、その時は確か表でシックが直接行って報告を受けてたし、裏でも何人か使ってたけど解明には至らなかったみたい」


 うーん、とそれを聞いたリックは頭を抱えて周囲を見渡す、人気もなく人の目もない穏やかな公園だ。


 一刻も早く、解明の糸口を掴んでエイリーと共に黒化病の浸蝕を抑えたいという気持ちはあるが、手は尽くされている。


 おそらくこれから先も蒼い髪の男が行った足跡を辿るだろう、彼らで解決しないものがリック一人に解決できるわけがない。


「みんなの浸蝕が進んだら、やっぱり殺さなくちゃいけないのかな」


「ボクは平気だけど」


 そう言ったエイリーに対してリックは顔を上げて言う。


「エイリーは鳥だから分からない?」


「さあ、ボクはこれでも700年は生きてるからなぁ」


 エイリーがそう言った瞬間、リックは目を細めて再度伺う。


「え、ということはお父さんって何歳なの?」


「たぶん300歳以上」


 そう言ったエイリーの言葉を聞いて、リックはわけが分からなくなる。


「人間ってそこまで長生きできないよ・・・?」


「この世界の常識だとそうなるよねぇ、でも元々は別の世界からこちらを覗いていた“目”に過ぎない」


 エイリーは得意げに説明する。


「この世界は“閉じた世界”とみんなが言っていたでしょ、元々は“開いていた世界”だったわけだ」


「う、うん、それで?」


「“あちらの世界”では既に“こちらの世界”は存在しないものになっていて、決してあちらからは開かれることは出来ないと思う、ボク以外には無理だろうね。ただ開いてしまった時にあちらの世界で数えて既に300年は経過しているはずなんだ」


 リックはエイリーの説明を聞いて口を開けてぽかんとしている。


「つまりあちらの“主格だった目の持ち主”は既に死んでいて、シックやマミ、レイラ、ユン、ショコラ、エスキ、黒化病を発症するメインアカウントと呼ばれる冒険者はあちらの世界で既に死亡しているはずなんだ。だから」


「ちょ、ちょっと待って!整理させて!」


 リックは再度、頭を抱える。


 どういうことか分からない、分からないけど、もしもエイリーが言っていることが正しく、あちらの世界が実際にどうなっているのかも分からないわけで経過しているというのはエイリーはそれを知っているということだ。


「もしかして進行している病ではなく“劣化”・・・・・?」


 リックがそう呟くと、エイリーは頷いた。


「シックや他のみんなもそう考えてる」


「そもそも、300年も生きていたいって願ったりするものなの?」


 エイリーはリックのその問いに対して言う。


「ボクはリックを助けるためにここにいる、みんなもそうなんじゃないかなぁ」


 リックはエイリーが答えるごとに分からなくなる。


「もしかして“見て”いるの?」


 おっと、とエイリーがリックから顔を背けた。


 その反応だけでリックは察しがつく、エイリー自体はとても素直でいい子だとリックは確信する。


「連れて行って」


「ふえ?」


 リックはエイリーの手綱を握って、冷めた目をしてエイリーに言う。


「あっちの世界」



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