エイリーサイドストーリー
当時のボクは育ててくれた育手である一番最初の乗り手を失って、失った先で特異点の力である【移動】を手に入れた。
ボクの特異の力は余りあるもので、悪い人間から悪魔、悪神と呼ばれるような無秩序に存在するこの世界の混沌を相手に暴力で解決できる存在だった。
異なる力は、それはもう負けることを知らないほどに強力でただボクは強く、あまりにも強すぎた。
その力はある種の災害と呼ぶに相応しく、人間達からはボクが行う行動の数々を「神罰」と言われたほどだった。
「大変なことをしてるね」
そんなボクが何を愛したのかというと、この世界樹になる豊潤で甘い果実、いわゆる世界樹の実だ。
元々神域だったこの場所をボクは独占し、支配するようになってこの世界樹の一帯をまとめあげた。
神竜だったり、神だったり、悪神だったり、人間達もまたあらゆる体力を回復させる世界樹の実を求めていたけど、それらをボクが討ち滅ぼした。
プリメラの始祖にあたる竜がその神竜なんだけど、奪い合いの末に滅ぼしちゃった。
「かなり悪いことしてるね」
そんな折に、世界樹の近くにあった村の近くにあった洞穴をボクの巣にして、ボクはそこで暮らした。
村の人達がボクを神鳥と呼び出したのもその時だ、何せボクがその洞穴にいるというだけで悪しき者は立ち入りすら出来ない、神々もまた近づくことを恐れたため、平和だったんだ。
平和なのは良いことだけれど、人間は増えていく。
その村はとても豊かで冒険者も訪れるようになって栄えるだけ栄えた。
そんな時、ある一人の赤い髪の少女が洞穴に足を運ぶようになった。
「それが私?」
「うん」
少女は訪れる冒険者の話を聞いてそれをボクに話してくれた、そしていつか冒険者になりたいとボクに夢を話してくれたんだ。
そこで赤い髪の少女はボクにお願いする。
『いつか冒険者として一流になったら、私を※※リーの背中に乗せて欲しい』というそんな話だった。
育手である最初の乗り手を失ったボクは傷心しきっていたけど、ボクはそれもいいかと思って少女の提案を承諾したんだ。
それからしばらくして、いつものようにボクが出掛けて戻ってくると、その世界樹を中心として神々と悪魔達の緊張が高まって戦争が始まろうかとしていた。
それらの争いはボクの機嫌を損ねた。
【イグドラシルフィールド】、あれはボクを中心とした周囲の全てを“起源”に戻す結界。その中に立ち入った者は何人たりとも怪我や欠損があればたちまちに修復し、その個体の起源である完全な状態に戻ってしまう技だ。
ボクはそのイグドラシルフィールドを展開し、戦争を起こす前の神々と悪魔達をそれぞれの起源に留めた。
そこから先は何度も何度もボクが相手をしたわけだ。
あらゆる攻撃がボクに届きもせず、そしてボクの攻撃は神々と悪魔達の四肢や身体を吹き飛ばし、そして修復した。
彼らには痛みの記憶だけ植え付けてここから去って貰うつもりでいたんだけど、ボクの考えは少し甘かったみたいだ。
神々は撤退したけど、悪魔達はそうはいかなかったみたいで、撤退したふりをして近くの人間達の村々を襲撃したんだ。
ボクがそれに気付いてイグドラシルフィールドの展開を伸ばして村々を覆ったけど、少し遅かったみたいだった。
村の半数以上の人間が半死半生状態で、大半が既に絶命していたためにイグドラシルフィールドは有効ではなかった。
ボクの力では死んだ者を生き返らせることは出来ない、亡くなってしまったらそれまで生きていた肉体は起源を失い肉体はただ崩壊していくだけだ。
少し、ボクが気付くのが遅れたせいで村の人間が大半死んでしまった。
その中にはリックの父親と母親もいて、リックは赤子の妹を抱えて死にかけていたけどまだ生きていたのでイグドラシルフィールドで再生することが出来た。
そこでボクは選択を強いられることになった。
悪魔達による虐殺によって感情を乱されたボクは特異の力【移動】が暴走し、ボクの周囲に時空間の歪みが生じてしまった。
暴走状態となったボクの【移動】の力はあらゆるものを飲み込んで、リックと赤子もどこかに連れて行こうとした。
ボクは二人を取り戻そうと動いたけど、時空の歪みに吸い込まれるリックが手に抱いていた赤子をボクに投げた。
『エウリュアレをお願い!』
リックはそう言って時空の歪みに飲み込まれてしまい、ボクと赤子のエウリュアレがその場に残った。
ボク自身ですら場所も、時間軸も分からない時空の歪みの中にリックは消え去ってしまった。
赤子のエウリュアレが泣いて、どうすればいいのか分からず、しばらくボクとエウリュアレは人間達が住む場所を探しては母乳を貰ったり人間から面倒を観てもらう日々が続いた。
誰かに預けようと思ったこともあったけど、エウリュアレは決してボクから離れることはなく、しかも困ったことにエウリュアレには他の人間にはない異常が見られた。
それは、エウリュアレの時間が止まったままだということだ。
これにはボクも参ってしまった、しかし預けられた以上はエウリュアレを育てなければならない。
そんな折に、人語を話す魔獣が爵位を持っているという話を耳にした。
ボクはその魔獣に会い、人語を教えてもらうことにした。エウリュアレに人語を覚えさせるためでもあり、ボクが人間達と会話するために必要なことだったからだ。
公爵は人語を話す魔獣であったが、人とよりそい合いながら生きていたフクロウの魔獣だった。
彼には人語だけではなく色々なことを教わった。
能力そのものの意味や力の使い方、紳士的な振る舞いや、人と人が話す際のマナーやルール、赤子の世話のやり方、そして止まったエウリュアレの時間を進ませる唯一無二の方法。
不苦労、福来とも呼ばれるフクロウは知恵を象徴とする鳥だ、そんな彼だからこそボクはたくさん彼に助けられた。
エウリュアレの時間は、進められるが戻すことは出来ない、そして止められるということに公爵とボクは気付いた。
ボクと公爵は話し合って、どの時間にエウリュアレの時間を進めるか、ということに悩んだ。
そしてエウリュアレが一人で行動出来て、人間として不自由のない時間まで進めることになった。
それが今のエウリュアレだ、彼女は老いることはないが知恵を身に付けることが出来た。
それから公爵とボクは獣の言葉が分かるエウリュアレに人語を覚えさせるのに苦労した。ボクは特異点であるためかすぐに人語を理解し、話せるようになったが、エウリュアレはそう簡単にいかなかった。
語尾に「です」が残ってしまったが、何とかエウリュアレも人語を理解した。
公爵に別れを告げて、ボクとエウリュアレの旅がそこから始まった。
困ったことにエウリュアレは同じ場所には留まることがなかった、そのためエウリュアレのある一定の周囲にボクは必ず居ることにした。
時間を進めて人語を理解できたとはいえ、エウリュアレの中身はまだ幼い少女だ。
色々なトラブルを起こして、王都の色街に売られそうになったところを蒼い髪の兵士が助けてくれた。
ボクとしては社会科見学のつもりで放り込んだが、蒼い髪の兵士はエウリュアレが問題を起こす度に出くわして・・・・いや、そもそも兵士なのだから問題が起きれば駆けつけるのか、とにかくその度にエウリュアレは助けられ、説教される破目になっていた。
いつしかエウリュアレが蒼い髪の兵士を「おししょー」「おししょー」と呼ぶようになったため、蒼い髪の兵士はエウリュアレが独りで生きられるように冒険者ギルドを紹介したり、一緒に依頼をこなしたり、金を稼ぐいろはをエウリュアレに教えだした。
なんて気のいいやつだ。
そういえば最初の乗り手も王都で騎士をしていたな、とボクは考えるようになっていた。
エウリュアレの近くに居ながら見守る、そんなことを続けていたある日のことだ。
ボクは力加減を誤って、王都のお城の屋根を壊してしまった。
すぐに逃げることは出来たのだが、謝罪をしに行くと牢屋に入れられて捕まってしまった。
保釈金を払えば出られるらしいのだが、宝石や金銀財宝を所持して入るもののお金に換えられる術がないボクは無理矢理出て行くわけにもいかず、牢屋でエウリュアレを見守ることが難しく困り果てていた。
そんなことを考えていたボクの目の前を蒼い髪の兵士が通る。
「なんで鳥が牢屋に?」
「さあ、お城の屋根を壊して宰相閣下がお怒りなもんで牢屋にぶち込んでろってよ」
「ふぅん」
蒼い髪の兵士は牢屋にいるボクのことをじぃっと見つめて何かを思い出したように何処かへ行ってしまった。
しばらくして戻ってくると、牢屋のカギを手に持っていて牢屋を開けてくれた。
「出ていいぞ、ちょうど騎乗種の鳥が欲しかったんだ。城の修繕費とまではいかなかったが保釈金ぐらいは全財産出せば払える。良い騎乗種を買うにしたって保釈金の10倍はかかるからな、ちょうど良かった」
ボクは蒼い髪の兵士に身綺麗にブラッシングされて、新しい鞍と手綱を付けて貰った。
保釈金を払って貰って牢屋から出れたのはいいけど、ボクは蒼い髪の兵士と旅をすることになった。
それがシックとの出会いだった。
すぐに出てシックにあれやこれやを説明して宝石でお城の修繕費とボクの保釈金を払った、そこでまあ旅に同行するエウリュアレと遭遇するわけだ。
「あれ、※※リー、※※リーじゃないですか、何をしているんです?」
「あはは、ちょっとね」
「知り合いか?」
この蒼い髪の男とは不思議な縁がある、そう思ったボクはエウリュアレが立派に育つまでは次の乗り手をこのシックという男に決めたんだ。
それから色んな冒険をしたよ、世界が閉じるまでずっとシックとエウリュアレとずっと旅をしてた。
いつしかシックは「エウリュアレにこれ以上教えることはない」と告げ、エウリュアレはボクからもシックからも巣立っていった。
色々とふらふらしているみたいだけど、合流したり別行動だったりとかだったな。
世界が閉じた後、今のリックのお父さんであるシックの自我が芽生えた。
彼は彼だけども魂までは彼ではない、何と言えばいいのだろうか。
ボクは不思議な感情を最後まで語ることはなかったけど、そこで彼との冒険は終わった。
別れ際に名前を削られて「エイリー」という名前になったのは、そこからだ。
それから年月がいくつ経過したのか分からないが、ボクはある日を境に完成する。
特異点と呼ばれていたこの力が、この世界の管理者によって認定されたのだ。
ボクはその日に世界の管理者であるマキナに会った。
そしてすぐに選択を迫られた。
「君の背中に乗っていた蒼い髪の・・・・そうそれ、そいつ今にも死にそうだけど、どうする?」
そう言ったマキナはボクにある交渉を押し付けた。
「エイリー、君が世界を壊したりめちゃくちゃにするつもりがないなら誓約としてここで誓ってもらう。それを破ったら君は消去されるが、約束してくれるならそいつの居場所を教えてあげる」
ボクは即応してマキナとの交渉は成った。
そうしてボクは死にかけているシックの元へと行ったんだ。
交通事故の場面だったり、病気で臥せっている場面だったり、誰かに刺されたりする場面だったりしたけど、ボクは確かにシックの最期を見届けた。
そうしてシックはどの場面でも死に際に「間違えて飛ばした赤い髪の少女の件」を口にする。
どういう理由かは分からないけど、彼は違う世界でリックのことを探してくれていたらしかった。
「エイリー、エイリー、よく聞け、赤い髪の少女は・・・・年後の・・・・の森で見つかる。記憶を失っている可能性がある。見つけてやれ、いいな」
彼はそう言ってボクに別れを告げた。
とても穏やかな死だった。
そこからボクはリック、君が現れるのをずっと閉じた世界の中で待ってたんだ。
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