リックと黄金の神鳥XV
世界樹中層4000メートル付近に到達して九日間、ここから上へは一日300~500メートルしか登れず6000メートル付近に到達すれば同じように一週間以上は滞在しなければならない。
エイリーが言うには、7000メートル以上登ってしまえば持って来た酸素もバリアも封牢結界も維持して登り切れるらしい。
こんなところを他の冒険者が数多く行き来していたとはリックには考えられない、それほど過酷で厳しい環境だ。
火竜の防寒具が本当に役立っている。
寒くなれば寒くなるほどに周囲から魔力を吸収してある一定の温度を維持する、これが無ければ全身が凍っているかもしれない。
エイリーは元気だ、どんどん進むし切り裂くような雪と風に全然堪えていない、鼻歌交じりですらある。
6000メートル付近に到達、ここにも似たような中継地点がある。
身体が空気に慣れるまではここから動かない、朝食、おやつ、昼食、おやつ、夕食、おやつの頻度でバランスよく食べていないといけないし、持って来たお茶や紅茶類も濃くして飲まなければならない。
風も吹かない世界樹の洞穴にテントを設営して三日間は寝て起きて身体を動かさずに過ごす。
エイリーはここでも元気だ。
しかも訪問客が現れる。
氷の属性を持った四足獣、シカの仲間やオオカミの仲間だろうか、とにかく観たことがない。
彼らはこの厳しい環境に強く、平然と雪と風の中を歩いてくる。
エイリーが居なければ空気の薄さに慣れていない状況で動けたかどうか分からない、とりあえず日記にエイリーの訪問客をスケッチする。
「おや」
そう言ったエイリーの周囲を回って、エイリーの足から背、背から頭に登った小動物が現れた。
額にもう一つの眼みたいなものがある。リスの仲間だろうか。
「リック、滅多に現れない宝石獣だよ」
エイリーの頭の上でかなり威張っている、その態度で分かる。
「彼らはここ周辺の高さを管轄してる非常に賢くて希少な存在なんだ、久しぶりだね」
リックが食べている木の実や乾燥させた果物を欲しがっている気がする、手が前に出ている。
それを見てリックが木の実をエイリーの頭の上に投げると、宝石獣は両足と尻尾でバランスを取ってそれを両手で掴んだ。
なんとも愛らしい。
「宝石獣は強いから気を付けないと、下手なことをして倒される冒険者もいるくらいだから」
「強いの?」
一言しか喋れない、空気が薄すぎて呼吸するだけで手いっぱいだ。
「強い、ボクほどじゃないけどね。まず存在を見たら逃げる冒険者が多い」
エイリーの頭の上で木の実を頬張っている宝石獣、話を聞いているのかどうかは分からない。
「ありがとう、だって。お礼を言うなんて珍しいじゃないか」
高慢で不遜な態度をしている、高飛車で下手を打つタイプだろうか。それでもリックにお礼を言ったらしい、宝石獣はエイリーと何か会話をして去っていった。
「リックに会ったことがあるんだって」
リックは思い出せない、分からない。
「・・・・?」
宝石獣は何も言わずに顔を洗っているが、エイリーが何やら宝石獣から話を聞いている。
エイリーがリックをちらちら見ている、どうやらこの宝石獣はエイリーに何か言っているらしい。
動物同士で会話をされるとリックは何を話しているのか分からない、とりあえずエイリーが持って来た世界樹の実を新雪を溶かした水で洗っている。
「あー、リック、そろそろ旅の目的を話そうかと思うんだけど」
エイリーがそう言っていると、宝石獣はエイリーの頭を小さな手でぺしぺしと叩いている。
痛みは毛ほども感じられないだろうがエイリーは宝石獣から頭を叩かれる理由があるのだろう。
「実は、リックの記憶喪失の原因はボクなんだ」
▼【エイリーサイドストーリーに続く】
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