リックと黄金の神鳥XIII
リックがプリメラから貰った服は特殊な効果を持つ防寒着の一着のみ、寒さに対して強い耐性効果を持つ火竜の皮を加工したものだ。
竜種という存在は、古来より存在していた希少な存在で、人にとっては存在するかどうかも分からない未知だった。
世界が閉じた後、解き放たれた冒険者たちや、存在していた脅威である竜種は大きな混乱を産まなかった。
輝ける黄金の鳥が居たからだ。
その存在は世界に一つの平定を齎した。
王国はその領地の統治と隣国を助力するための同盟を周辺国家と組み、輝ける黄金の鳥に対しての勢力を生み出した。
人間にとって有利な展開へと突き進むと思われたが、人間は輝ける黄金の鳥以外にも多くの脅威を認識することとなった。
その脅威の一つが竜種の存在だ。
竜種は数多く存在し、世界が閉じて人とそれ以外の生き物の領域を隔てる壁がなくなった時、一度だけその姿を人間達に見せた。
人間達はこの世界の均衡が黄金の鳥によって保たれていると改めて再認識をし、竜種との不可侵条約を結んだ。
竜種は金銀財宝に目がなく、それぞれが得意な属性に別れていて、人間には実現できない魔法を使う。人化の魔法もその一つだ。
閉じる前の世界と大きく違う理由は、まだ発見されていないからだ。
竜種は数年に一度、成長をする過程で脱皮をする。特別な竜種ほどその脱皮した皮に魔力が込められていて、リックが選んだ防寒具にはその火竜の皮が使われている。
見た目はただのコートだが、着ると空気中の魔力を熱に変換してくれる。便利なものだ。
「エイリーの剣は?」
「ん、置いてく。また世界樹を降りた時に取りに来るよ」
世界樹を登る際には竜種の許可を必要とするが、それは管理するプリメラから直々に得た。
エイリーの登る速度の問題で酸素マスクが必要だったのでそれも用意した。問題なく登れそうだ。
「よし、行こうエイリー」
「おっけー」
リックがエイリーに騎乗し、周囲を見渡すとそこにプリメラの姿はない。
「プリメラは?」
「忙しいから来れないって言ってた」
「色々と世話になったのでせめて一言御礼くらいは言いたかった」
リックがそんなことを言うと、エイリーは笑って言う。
「プリメラに限って全てが無料と言うわけではないはずだよ」
「それならせめて降りたら会いに行こうか」
「そうだね」
エイリーはゆっくり歩きながら徐々に速度を上げて往路の流れについて行く、煉瓦と瓦礫の継ぎ接ぎの街を行き過ぎ、そうして世界樹の麓まで辿り着くとそこは人の踏み込めないような未開の森が広がる。それら全ては根だ。
世界樹を登るにはここから高い料金を払って荷運び用の滑車に乗せてもらうか、自力で登るかだ。
多くの冒険者は自力で登ることを選ぶ、高い料金を払うよりも楽だからだ。
リックとエイリーはもちろん自力で登る。
杭を打って少しずつ登っていくこともあれば、浮遊の魔術で登ることもあるルートだがエイリーは空を駆けることが出来るためにすぐに中層へと登ることができる。
エイリーや能力を持つ冒険者にとって登ることは簡単なことだが、中層、上層、最上層へとすぐに到達すると引き返さなければならなくなる。
原因は高山病だ。より高層になれば酸素が薄くなるために頭痛や疲労、吐き気などから始まり、重症状になると息切れ、錯乱、昏睡などの症状が現れる。そのためにゆっくりと身体を慣らしていかないといけない。
もしも高山病が酷い場合はすぐに下山、いわゆるこの場合には下樹しなければならない。
リックとエイリーが目指すのはもちろん最上層、そこまでに到達するまで最低でも中層で一週間、高層で一週間は過ごさなければならない。行ってすぐ帰るならエイリーの跳躍ですぐに着くが、今回の旅の目的は最上層の観測にある。
もちろん封牢結界などで防護すれば気圧差は一切関係はないが、それだと旅の味気がないのだ。
世界樹の周囲を回り込むようにゆっくりとエイリーはバリアを階段状に展開して登っていく、これもリックが高山病を起こさないようにするためだ。
何故、こんなに詳しく話すのかというと前の乗り手がその高山病を受けて一度ダウンしているからだ。
世界樹周辺をを階段のように登っていくエイリーだが、一周にするにあたって約十三キロメートルを階段のように登っていかなければならない。これはもはや木と呼べる代物ではない、世界樹の中心部は高温を発しており、その熱すらも吸収しきって世界樹は栄養に換えて今現在も緩やかに成長をし続けている。
エイリーですらこの世界樹が成長しきった際にどうなるのかは分からない。
内部はこの惑星にある活火山の一つを丸ごと吸収しきっていることだけはエイリーも観てきたので分かる。
ここからはエイリーの推察だが。
「この世界樹はおそらくマグマを栄養にして活動してる人工の建造物よりも遥かに堅い強度で作り上げられた自然物だ。今いる場所は下層、根に近い場所だから材質は硬質で超高密度、しかも形状を記憶していて魔力が練り込まれている」
「魔力が・・・・」
「だから破壊しようにも魔力で修復されて元通りになる。簡単に破壊なんて出来ないけど」
エイリーが語るその話は全て経験則からだ、おそらく試したのだろう。
「普通、硬度が高ければ簡単に壊れて崩れそうなものなんだけど粘性も持ち合わせていて地震に対しての強度はおそらく完全耐震性を持ってる。地盤が揺れても中層や上層が揺れることなんてない」
「異常な存在すぎて特異点に見えてきた」
リックがそう言うと、エイリーはバリア状の階段を上りながら言う。
「この世界の完璧な自然物らしい、マキナはそう言ってた」
「管理者が言うなら自然物なのか」
世界樹の周囲を緩やかに登ると中層が見えてきた、ここまで来ると高度は二千メートル、この世界樹の高さは十万三千キロメートルなのでまだまだ先がある。
中層は高度約二千メートルから四千メートルまでを差す、そこから八千メートルを上層、さらにその上が最上層となる。
ここまで来ると空気が薄くなっているために呼吸は荒くなる。もちろん気温も下がり体温も低下する。リックはすぐに火竜のコートを羽織って体温を保持した。
「ここで一週間だね。リック、大丈夫?」
リックの呼吸は少し荒いが特に気分が悪くなるようなことはない、慣れるまでしばらくかかりそうだ。
「うん、まあなんとか大丈夫そう、それで中層には何があるの」
リックがそう聞くと、エイリーは背中に乗っているリックを片目で見やって言う。
「先住民たちの街」
エイリーが歩き出すとリックの眼前に不思議な光景が広がった、樹上に小さな街がある。
家々が並び立ち、市場が見える。それも魚市、つまり樹上に魚がいるということだ。
外周をエイリーがリックを背に乗せて歩くと、道行く人達が両手を合わせた祈りの形を取る。
「祈られてる」
「あー、ボクを観たらこうするのがここの先住民達の習わしなんだ」
何したんだろうこの子、とリックは呆れて何も言えない。
祈り終われば干渉はされないし、先住民からは声も掛けられないが子供達は興味本位で寄ってくる。
「黄金の鳥さんだ!」
「何しにここへ?」
「観光?」
ひっきりなしに質問が飛んで来る、その一つ一つにはさすがのリックも答えられないがエイリーは言う。
「宿を探しているんだけど」
「それならユキちゃん家だね!」
「いつまで滞在するの?」
「ユキちゃん!おきゃくさんだよー!」
声を掛けられた女性がこちらに向かって走ってくる、全速力だ。
「よ、ようこそ兎ノ原へ!ってあれ?エイリー?」
「やあ」
どうやらエイリーの知り合いらしい、女性はリックをまじまじと見つめて首を傾げる。
「エウちゃんに似てるような」
「ああ、エウのお姉さん」
エイリーがそう説明すると、女性は納得がいったように頷いた。
「なるほど“次の乗り手”か」
「リック、こちらはユキさん。兎ノ原で宿屋を経営してる女将さん、シックの古い知り合いでもあるよ」
「初めまして、リックです」
そう言ったリックをユキは珍しそうに眺めながら言う。
「初めまして、シックにはしばらく会ってないけど私も一応は仲間の一人だよ」
「彼女は黒化病を患って拠点を仲間から離したからここに居るんだ」
ユキはその話を聞いて完全に納得したようだ。
「なるほど、いつの間にか黒化病が無くなっていたのはあなた達のおかげね。一応シックに手紙は出したんだけど」
「あー、読んでないんじゃない?」
「ありえる、結構適当だからなシックは」
そう言ってユキは笑っている、エイリーとは仲が良さそうだ。
「それで今回は世界樹登頂が目的?」
ユキがそう聞くと、エイリーとリックが頷いた。
「ふーん。ま、うちに来なよ。しばらく滞在するんでしょ?」
「高山病が怖いからね」
エイリーがそう言うと、ユキは笑って言う。
「シックが高山病でどうにもならなくなって慌てふためいてたエイリーを思い出すわ」
「こ、今回はちゃんと気を付けてる」
そう言ったエイリーの言葉を聞いてユキは笑っている。
ユキに案内されて辿り着いた宿は温泉宿だった。湯気がもくもくと昇っている不可解な光景がリックの目に映る。
「温泉・・・・?」
「うちは中層にただ一つしかない温泉宿だからねぇ、銭湯も経営してるのよ」
ユキがそう言って隣に立つ銭湯を指差している。不思議だ、樹の上で温泉が湧くなんて思えないとリックは驚いている。
「この世界樹の成り立ちはエイリーから聞いた?」
ユキが湯気を見上げるリックにそう聞くと、リックは慌てて答える。
「あ、確かマグマを吸い上げてるって」
「そう、そのマグマの熱で水も吸い上げてるみたいなの、それが温泉になって中層に溢れ出してるってわけ」
何故だかリックには理解が及ばないが、温泉宿の敷地内に「エイリー専用」と書かれた小屋が見える。
「あー、あれはこの温泉宿の源泉を掘る際にエイリーが深く関わっているからVIP扱いなのよね」
ユキがリックの視線に対して説明を入れる。
「月一度でいいので小屋を掃除してもらうようにして貰ってるんだ」
エイリーがそう説明するが、もはやわけがわからない。
「あー、エイリーの乗り手からはお代は取らないから、安心してね」
「ボクはここ周辺を縄張りにしているからどこを立ち寄ってもこんな感じになるよ」
ユキとエイリーがリックにそう説明するが、自分が一体何に乗っているのか分からなくなってくる。
「ここがリックとエイリーの宿ね」
エイリー専用の小屋の間に広い庭があり、その奥に世界樹と隣接するように建てられた家、屋敷だ。
「しばらく滞在するのよね?」
リックがエイリーから降りると、ユキからそう声を掛けられた。
「はい、数日ほどお世話になろうかと」
ユキは弓の弦を爪弾いて武器の調整をしている。
どこから出した武器だろう、と不思議に思ったリックはハッと気づいた。
「黒化病で身体が動かなくなってて私ももう引退した身なんだけど、しばらくはここの空気の薄さに慣れないといけないみたいだし、次の乗り手の実力がどんなものか見極めようかな」
そう言ったユキは弓と矢を両手に携えている。
ユキは冒険者だ、蒼い髪の男と友人ならばこの展開も予想しないといけなかったのだが久しく訪れてなかった機会だったのでリックも忘れていた。
「がんばれー」
エイリーはそう言って左翼を振っている。
広い庭の中央に立ち、二人はお互いに武器を構えた。
ユキは弓を持っているだけで矢を引いてはいないが、リックは双剣を抜いて構えている。
「いつでもいいわよ」
そう言ったユキは弓を引いているわけではない、このままこの距離から踏み込んで詰めれば簡単に距離を潰せてしまう。そうすればリックにとって有利だ。
「いきます」
構えて身を低くしたリックが地面を強く踏んで、一瞬でユキの懐まで駆け寄った。
目の前のユキが像を残してその場から消え、弓の弦が空気を切るような音を響かせて矢がリックの目の前の地面に突き刺さる。矢はわざと外されたものだ。
「っ!【封牢結界】!」
リックはユキの弓と矢を脅威と判断して即座に、自身の周囲を封牢結界で防御する。
「あら」
より強固な結界はユキが放った矢を止める。
「・・・・・・・・・」
ユキが黙ってしばらく考えた後、動かないリックの封牢結界に対してユキは弓を引いた。
「【霹靂】」
真横に射る一本の矢が上下左右から何百本にも分裂して降りかかる。矢は当たった瞬間に消失しているがこれは波動の一種だ。
しかし、封牢結界を崩すことは出来ない。
リックはこのまま封牢結界ごと動いてユキに突進することも可能だが、おそらく避けられるだろう。
ユキが苦し紛れに弓を強く引いてリックの封牢結界に打ち込んだが、傷一つ付かない。
「お手上げね」
そう言ってユキが溜息を吐いて降参する。
「あれはボクを止められる技だからね」
それを聞いてユキも納得したように頷いたが、リックは地面に突き刺さった最初に放たれた矢を見つめている。
「外さなければ致命傷だったわね」
「油断した」
リックが矢を引き抜くと、矢の先はゴムのような弾力のある素材で出来ている。
「弓矢の冒険者相手には誘いに乗らないこと、最初からアレを出してたら捕まって私が負けてたわね」
侮れない、とリックはユキに引き抜いた矢を手渡した。
生き残っている冒険者はどれも化け物じみていて、寸分の油断や僅かな判断の誤りでも確実に致命傷を取りに来る。
真剣だったら、と思うとリックは何も言えなくなる。
少し動いただけだがリックの息が荒くなってきている。空気が薄く慣れない場所で急に動いたためだ。
「確か酸素があったと思うんだけど」
ユキはリックの様子をみて従業員に聞いている。
すぐに従業員がお客様専用の酸素呼吸器を持ってきた、よくあることみたいだ。
すぐにリックは酸素呼吸器を使って自身の呼吸を整える。この場所は高度2000メートル以上にある、エイリーが楽々と登って来たので身体がまだ薄い空気に追い付かないはずだ。
「ありがとうございました」
「慣れるまでたぶん必要になると思うよ、特に暗殺者は動くとき呼吸が少ないからね」
ユキに言われて「確かに」とリックは返そうとした酸素呼吸器を引っ込める。少し動いただけだがここまで空気が薄いとは思わなかった。
「ユキさんのような技量を持った弓を扱う冒険者と戦うのは初めてでした、普通は当たらないというか」
リックはそう言って反省している。勝ちたいという欲が何故かリックにはある。自分自身でも不思議なことだ。
「あー、弓の冒険者は希少だからね。滅多にそこまであたらないと思う、特に罠専門の弓」
「罠専門・・・・」
リックがそう聞くと、ユキは首を傾げた。
「あら、シックから聞いてないの?」
「罠を使う弓職の冒険者の話は聞いたんですけど、出会ったことは・・・・」
頷いてユキは言う。
「一人だけ、今はどこに居るのか分からないけどシックの知り合いにとんでもない罠師がいる」
「具体的にどういう・・・・・?」
「まず罠を踏んだら終わりかな、見えないしただ突っ立っていても罠がいつの間にか足元にある感じ」
「えぇ」
リックにとってにわかには信じられない話だ、おそらく罠の威力と設置技術が高いのだろう。
「この世界に一人か二人いるかいないかなんじゃないかなぁ」
ユキはそう言って落ち着いたリックの姿を見てお茶菓子を用意している。
リックはエイリーにまだ荷物が乗っていたことに気付いて、その場で荷下ろしをしている。出発するときにはまた荷を持ってもらうが今のところは移動する理由がないのでエイリーにも楽をさせてあげたい。
荷物に解放されたエイリーがぶるぶるとリックと荷物から離れた場所で身震いしている。
「リックちゃんはここ。エイリー、いいかな?」
ユキはそう言ってお茶とお茶菓子を出してリックを木製の椅子に座らせる。
「たまにはボクも身体を動かさないと」
そう言ったエイリーがユキと向き合っている。これもユキにとっては訓練ではあるのだろう。
「エイリーが本気を出すとここが壊れるから、私が動けなくなるまで」
ユキがそう言うと、エイリーは頷いて言う。
「おっけー、じゃあいくよ?」
装備の無いエイリーがユキに向かって走り出し、様子見の蹴りを入れる。これでも油断すれば人間が吹き飛んでしまうほどだ。
ユキはそれを転身、跳躍して避けてエイリーに対して弓を構えて矢を放つ。リックが致命傷と感じた攻撃はこれだ。
弓矢の先からエイリーが消え、地面を蹴った痕を残してその場から消えた。
着地をしてユキは気配を見る前に前転する。
ユキが着地をした場所にエイリーの足が砂埃を上げて勢いよく踏みつけられる。
前転したユキが立ち上がる瞬間に一矢、エイリーはこれを踏みつけた足とは別の足で掴む。
立ち上がりから地面を蹴って下がるユキが再び、二矢目を放つ。
それすらもエイリーは同じ足で掴む、ユキにとっては化け物以上の何者でもない。
「っ!【霹靂】」
ユキの波動の矢だ、頭上から降り注ぐ矢の雨がエイリーを包み込むが、エイリーのバリアは貫通を許さない。
「【双牙】」
ユキの波動の矢は技に続きが存在する。頭上から降り注ぐ波動の矢と、地面から湧き上がる波動の矢だ。
リックにも見せないとっておきの技だろうが、エイリーはその上下の波動の矢が噛み合う前にその場から移動する。
ユキにはそのエイリーの移動が見えており、そこから弓を引いて矢を構えるまでの挙動でエイリーから踏まれ身動きが出来なくなってしまった。
「こ、降参!こうさーん!」
「やっぱり弓矢は危険だね」
エイリーがそう言いながら踏んだ足をユキから退かすと、ユキは服に着いた土ぼこりを払って立ち上がる。
「射線には誰もいないから本気で射たんだけど、全部掴むんだもん。エイリーには勝てないや」
ユキはそう言って武器を空間に仕舞い込んだ。この空間に武器を収納する動作は開いていた世界の冒険者特有の所作だ。
リックがお茶を飲んでいる様子を観て、ユキは隣に座って自分のお茶も飲む。気になったリックがユキに問う。
「ユキさん、【霹靂】に【双牙】って・・・・・」
「あーあれ?仲間にも見せないようなとっておきの技、他にもあるけど見たい?」
仲間にも見せないような、という発言を聞いてリックは首を横に振る。
「シックも、レイラさんにもあるはずだよ。秘中の秘の技が、伊達に長生きしてないからね」
ユキはそう言って、指先で小さな波動の矢を手のひらサイズの空間で上下に噛み合わせて見せている。
醒竜の咆哮や波動剣、幻影身にもない技量がユキから垣間見える。
「まあ、隠せと言ったのはシックなんだけどね」
ユキはそう言ってお茶菓子を食べる。
「お父さんが?」
リックのそう聞いた言葉を聞いて、ユキは「ああ、そっか」と納得して言う。
「リックのお父さんは卑怯で姑息で悪い奴なんだよ、いい意味でね。そうでなければレイラもエウもマミさんもみんな生きてない、世界が閉じた時にみんな何をしたと思う?」
「逃げた、とかでしょうか」
リックがそう聞くと、ユキは首を横に振る。
「実際にはみんな何も出来なかった、ただ混乱がそこにあるだけでわけわかんなくなってさ。私もそうだったんだけど、シックだけは閉じた瞬間に行動してた。すぐに動ける仲間を集めて黒化病で周囲を殺しまわる冒険者に対して対応していった。ありゃいつか殺そうとしてたんだな、きっとそうだ」
笑ってユキはお茶を飲み、話を続ける。
「んで、協力と連携が生まれてその場はそれで切り抜けたんだけど、シックはやることがあるからーってどっか行っちゃって連絡は時々手紙でするんだけど、それっきり。私は私で旅をしてここに居を構えて湯宿を始めたのはいいけど、黒化病が足から始まって動けなくなっちゃったし。まあ、たまにエイリーとシックがここに来てたみたいだけど」
リックはそれを聞いて蒼い髪の男のことを考えたのだが、おそらく。
「異常があったら殺そうと思ってたんだと思います」
そう言うと、それを聞いたユキはあははと笑った。
「それはそれでいいのかもね、簡単には死なないだろうけど私の方が強いはずだし」
そっか、とユキは言って笑っていた。
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