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その6

          ∽ ∽ ∽ ∽ ∽ ∽


「バククン、かわいそう」

「どうして? バククンは夢を食べちゃうんだぞ」

「でも、わるい夢も、たべてくれてるんでしょ? やっつけなくちゃ、いけないの?」

「そりゃ、そうだけど。でも中にはいい夢だって混じっているかもしれない。何せいっぺんに食べてしまうんだから」

「でも」

「まだ、きみは知らないんだ。どんな夢でも、それを失くすことがどんなに怖いことか」

「でも、バククンはひとりぼっちだよ」

「ひとりぼっち?」

「あんなに広いさばくで、ひとりぼっち。ひとりぼっちで、頼まれてもないのに、おそうじしてくれてる。ぼくなんて、お母さんにあれだけお願いされても、お片づけをさぼっちゃうのに」

「けど」

「それに、バククンをやっつけて、何になるの?」

「みんな、喜ぶさ! 安心して夢を持ち続けてられるんだから」

「でも…… ぼくなら……」

「何をするってんだい!」

「……」

「ご、ごめん。ゆっくりで、いいよ。きみならどうするのか、言ってごらん。おじさん、もう怒ったりしないから」


「ぼくならね、つきのさばくにいって」

「月の砂漠に行って」

「バククンに、タマノリを教えてあげるの!」

「タマノリ? 玉乗りかい?」

「うん、サーカスの。バククンがタマのうえを、コロコロころがるの!」

「でも、ちょっと待てよ…… 玉は、どうするんだい?」

「えっ?」

「だって、バクはとっても大きいんだよ。乗ろうとしたら、ぺしゃんこになっちゃうよ」

「そうかなぁ」

「そうだよ。クマさんが乗る、大きな玉でも、無理だよ」


「じゃあ、タマを夢で作ってみるの」

「夢で?」

「だって、ユミヤだって作れたんでしょ」

「夢でかぁ。うーん…… ストローを夢の中にさして、ふうふう膨らませたら、出来るかなぁ。ゴム風船みたいな玉」

「うん! できるよ!」

「でも、けっこう、時間がかかりそうだよ。大きさが、大きさだから」

「ぼく、がんばる!」


「わかった。玉はちゃんと、出来たって事にしよう。それで?」

「タマノリを教えてあげるの。バククンがタマに乗ってコロコロころがるの」

「月の砂漠をバク君が、夢の玉に乗って、コロコロと転がる。なんだか楽しそうだね」

「うん、バククンはとても楽しいの。はなをプルプルさせてるの」

「イヌのしっぽみたいに? 退屈だったのかな。バクくんは」

「うん。だってさばくには、オモチャもコウエンもないんでしょ。すぐ、あきちゃうよ」


「そうかぁ。でも、やっぱり問題が残るよ、そのやり方じゃ」

「なんでー?」

「バクは玉乗りを覚えて、とっても楽しい。つまらない毎日が、ぱっと明るくなった。でも、それと夢を食べることは別々さ。ひょっとしたら玉乗りでお腹が空いて、もっと沢山の夢を食べてしまうかもしれないよ」

「でも、バククン。きっと、もう、おじさんの夢を食べたりなんかしなくなるよ」

「えっ?」

「だって、バククンにも夢ができるでしょ?」

「うーん」

「タマノリができるようになったら、もっと上手にタマノリしたい、って思うよ」

「そうかっ。そうだね。それこそサーカスみたいにお客さんに披露して、拍手を一杯貰いたいとか。ただ乗るだけじゃなく、玉の上で宙返りしたいとか。思うかもしれない」

「うん。バククンが夢を持つの」

「バク君の夢かぁ」

「そしたら、おじさんの夢をへいきで食べようとか、思わないよ」

「それってこういう事かい? 夢の大切さに気付いたバク君は、ご飯の時もっと慎重に夢を選り分けるようになる。シチューからニンジンを取り出すみたいに、ゆっくりと」

「バククン、ニンジンがきらいなの?」

「いやいや、その逆さ。そうやって選り分けて、本当に要らなくなった悪い夢だけを、申し分けなそうにして食べる。《ごめんなさい、いただきます》って」

「バククン、えらいね」

「うん、えらい。とってもえらい。さっきは怒ってごめんね。バク君に玉乗りを教えてあげるなんて、とても素敵なアイディアだと思うよ」



 もう、お日様も、バイバイしている。大きく振る手が無いから、代わりにお空を真っ赤にして一生懸命、別れを惜しんでいるんだ。すっかりオウチに帰る時間に、なってしまったね。

 おじさんのお話、楽しかったかい? おじさんは、楽しかった。

 暗くなる前にオウチに帰るんだよ。寄り道なんかしちゃいけないよ。

 じゃあね。どうか、よい夢を。うん、またね。


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