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その5
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おじさんは走った。右手を前に戻して、夢を元の形に戻して、ポケットに入れて、走った。十歩もしない内に、まっ平らな砂漠なのに足がもつれて、派手に転んでしまった。柔らかい砂の上だったから全然痛くなかったけど、気が気ではなかった。音と振動で、バクが目を覚ましてしまうかもしれない。起き上がると、汗で湿った顔に砂がひっついていた。払う間も惜しんで、そのまま、よろよろと走り続けた。最後まで、怖くて、後ろを振り返れなかった。おじさんはバクから逃げ出したんだ。
失望しちゃったかい? でも、あそこで失敗して夢を食べられちゃったら、今ここでこんな話なんて出来ないだろう? それにただ逃げ出したんじゃない。秘策だってあるんだ。秘密の策戦だから、教えてあげられないけど、凄いんだぞ。次にバクに会ったら、もうびくびくすることなんて絶対に無い。自信たっぷりに、やっつけてやるさ。
「バククンがかわいそう……」
「え? 今、なんて?