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その3

          <l───────


 おじさんは、月の砂漠に行きたい、行きたい、と毎晩お願いしていたら、ある日とうとうそこに行けた。行き方かい? 残念だけど、どうしたことか、良く覚えていないんだ。


 それはともかく、そこは月の砂漠だった。

 辺り一面の白い砂がきらきら光っていた。地面、全部がだよ。思わず手に取ってみたら、その訳が分かった。夢の細かい破片が、貝殻みたいに砂の中に混じっているんだ。手の平からさらさら流れると、そこに光の薄い幕がかかったかのようだった。空は星一つ無く真っ暗で、でも足元は仄かに明るい。遠くの方には、あちこちに石や岩が虹色に浮かんで見えた。急いで近付いてみると、それらは全て夢の固まりだった。一つ一つ、大きさも光彩の具合もまちまちで、ひと所に無数の夢がテントウムシの冬眠みたいに集まっているものや、ぽつんと離れて砂に埋もれているものもあった。

 思わず助けてやりたくなるのもあったけど、他所様の夢だからね。おじさんが勝手に触ると、却って具合が悪いかもしれない。我慢しておいた。


 それよりまずは、自分の夢だ。そう、夢の弓矢を作らないといけないからね。バク君をやっつける夢を叶える為に、わざわざ月の砂漠にやって来たんだ。

 月に限らず、砂漠ってのは、ただっ広い。目印が無いから、見つけるのに随分と苦労すると思っていた。でも、ふらふらと三つ砂山を越えると、おじさんの夢はあった。本当に、あっさりと見つかったんだよ。

 思っていたとおり、それは真珠のように滑らかで、光も目を覆ってしまうほど強かった。自慢したくなるくらいにね。光は一定のリズムで鈍くなったり、煌いたりした。何処かとても優しくて、懐かしくて心地よかった。今思うと、あれはおじさんの心臓のリズムに合わせて光っていたのかもしれない。そっと手にした時、一際、輝いていたからね。ポケットの中に入れても、光が零れるくらいだった。


 さて、夢が手に入ったとなると、次はバクだ。だけど、こっちの方には手間が掛かった。探しても探しても、見つからない。もしかしたら、月の砂漠のバクはアリさんのようにちっぽけで、知らぬ間に踏んづけてしまったんじゃないか。そう思えてしまうくらい、探したんだよ。広大な砂漠全体からすると、ネコのひたい程の探検だったにしても。

 砂の地面なのに、踏み出す度に足の裏が痛くなり、膝のバネが利かなくなって、がくがく笑い出しても、まだ見つからなかった。そこで、向こう側にある一番大きな砂山を目指すことにした。あそこなら、ずっと先まで周囲を一望できるからね。バク君も捉えられるかもしれない。ふもとまで来てみると、なるほど身体が傾くほどの急斜面で、掴めそうなでっぱりも何も無い砂山だ。何度も転げ落ちた。転げ落ちて、滑り落ちて、その内にコツをやっと掴んで、砂の中にぐいと足を突っ込んで、四つん這いになって、よじ登っていって。頑張って頑張って、ようやく、少し開けた頂上に着いた。


 綺麗だった。月の砂漠で月並みな表現だけど、本当に綺麗だった。眼下には、ほの白い砂漠が淡く広がっていて、そこに夢の光が無造作に散りばめられている。それぞれの異なる夢の営みが、数え切れないほど集まって、一つの光景を作る。風は無く、深海の底にいるくらい静かだった。おじさんは、砂山のてっぺんにちょこんと座って、眼下をぼうっと見渡すしかなかった。でも、見渡している内に、湿った土で作られた山みたいなのが、もぞもぞと揺れているのが飛び込んできたんだ。

 ごしごしと目を疑ったよ。バク君が幾ら大きかろうと、ゾウを二周り大きくした程度で済むと思っていたんだ。その程度でびっくら仰天して、ひっくりかえる準備をしていたんだよ。でも、どう少なく見積もっても、そいつは家くらいの大きさはある。それも大金持ちの三階建ての大屋敷くらいの大きさだ。アリは、おじさんの方だったんだ。


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