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その2

          ◯ 〇 O o 。 .


 いいかい。獲物を狩るには、昔から弓矢と相場が決まっている。ライオンだって追い付けないインパラでも、弓矢の前じゃ、たじたじさ。

 インパラって? うーん。

 シカの仲間なのだけど、比べようも無いくらい、とっても速く走るんだ。脚はすらりと伸びていて、二本の角は長く、風を切るように鋭く生えている。ジャンプが得意で、駆けっこしながら、岩山を飛び跳ねたりする。だいたい、そんな感じかな。


 さて、そのインパラが木陰で寝そべっている。お日様に執拗に打たれて、参ってしまったみたいだね。

 脚をぐてっと横にして、耳の痒みを取ろうと、木の幹に頭をこすりつけている。

 《ああ、疲れた、疲れた。久し振りに遠出してしまったなあ。曇り空さん、今年はまだなのかな。大雨でも降らしてくれたら、ご近所にも沢山の草花が、ひょっこりと顔を出すのに》

 それを一つ離れた木の影から、プスリ。

 《やられた!》と思った時は、もう遅い。深く刺さった矢は、びっくりして、飛び起きることも許さない。呼吸さえ、ゆっくりと、掠れていく。ほら、とうとう止まってしまった。アーメン。

 哀れインパラは、それから塩コショウと一緒にこねくり回され、夕飯のハンバーグになってしまったとさ。


 ね、弓矢は、とても素晴らしいものだろう。猛毒を持つ蛇だって、牙を剥く前にプスリ。大空を舞う鳥だって、羽を広げる前にプスリ。

 月の砂漠のバクだって、例外じゃない。あちらさんがこちらに気付く前に、勝負をつけてしまうんだ。


 でも、一つだけ大きな問題がある。

 相手は夢なんか食べて、生活している凄いバクだ。果たして、普通の矢で、やっつけられるだろうか。あんなのに、矢なんて突き刺さるのだろうか。

 変哲もない木や鉄では、さすがに心許ない。

 鍛えられた鋼でも、少し不安だ。ゾウやサイの皮膚にさえ、弾き返されてしまうもの。

 では、銀はどうだろう。そりゃ、ちょっとは頑丈になるかもしれない。でも、なんと言っても、お金がかかり過ぎる。弓矢も銀となると、恐ろしく値が張るんだ。大豪邸の大広間で、偉そうに飾られているくらいだからね。何年も、朝、昼、晩と、ご馳走をたらふく食べ続けても、お釣りが返ってくるような値段になる。それこそ夢になってしまうよ。《神様、月の砂漠のバク様、どうか、銀の弓矢が手に入りますように》

 金の弓矢は……。もう、よそう。だいたい見当は付いてるだろうし。


 でも、大丈夫! 答えは簡単。

 夢を矢にすればいいんだ。バク君をやっつけたいという夢を、そのまま弓矢にする。


 そんなこと出来るのかって? 出来るさ!

 だって、バクがいるのは、月の砂漠だよ。夢の故郷の、月の砂漠なのだよ。現実では、如何ともし難い夢も、そこならまだ何とかなる。その光を全く損なわずに、この手に掬える。月の砂漠で自分の夢を探し出して、それを、ちょちょいと弄るのさ。


 いいかい、こうだ。

 まず、《バク君をやっつけたい》という夢を用意する。それを砂漠の中から見つけ出す。そうしたら、手で夢を両側から掴み込んで、肘がぴんと張るまで両腕を真っ直ぐに前へと伸ばす。すると、神様に捧げ物をするかのような格好になる。

 それから夢の片方を掴んだ左手を真っ直ぐに前へと張ったままに保つ。右手は反対側を握り締めながら、背中の方へと引っ張る。すると夢はゴムみたいに伸びて、左手と右手の間に一本の線が出来る。

 ほら、弓を絞る姿勢に、自然となった。

 仕上げに《バク君をやっつけたい》と強く念じれば、線は一筋の矢となる。

 右拳で掴んでいる矢の根元を離せば、そのまま矢は、前に突き出した左拳が向かう先へと飛んでいく。そこにバク君がいれば、バク君にプスリ、って寸法さ。


 えっ? わかりにくい? なんだかタイヘンそうだけど、ほんとうに出来るのかって?

 しょうがないなぁ。特別だぞ。

 実はおじさんは、昔、月の砂漠に行ったことがあるんだ。そこで実際に、夢の弓矢を作ったんだよ。勿論、月の砂漠のバク君にも会った。これは事実であり、きちんと体験によって証明されたことなんだ。


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