その1
昨夜に見た夢と、明日へと見る夢の間に、違いはあるのだろうか。《夢の中、羽が生えていて、ふわふわ空を飛んでいた》は手前の方で、《僕の夢は、飛行士になって、空を自由に駆け回ることです》は後ろの方だね。
どちらも眩しく輝いている一粒の光だ。この世界をほんの少し照らしてくれている。だけど同時に、そのままでは決して手に入らないものでもあるんだ。
例えば、目覚めた瞬間に、世界の全てが分かったような素晴らしい夢も、書き留めようと鉛筆を手に取る前に、もう変わってしまっている。あんなにも楽しく笑いあった夢も、どうにか形にしようと歩んでいる内に、少し違ったものになってしまう。だから夢の話になると、聞いている側は退屈そうな顔をするのも、当然のことなのかもしれない。けれど、そんな時、がっかりしちゃいけないよ。夢は純粋な煌きで、それだけに、とても脆い。手に取って現実へと持ち帰ろうとする時、どんなに注意を凝らしても、その一番大切な部分が剥がれ落ちてしまうんだ。
ちょっと難しかったかな? え? そろそろオウチに帰りたい?
でも、おじさんにとって、とても大切な話なんだ。まだお日様も元気に頑張ってるじゃないか。もうちょっとだけ、付き合ってくれないかな。
で、夢ってのは、月の砂漠という所にある。
そこに夢が石や岩みたいに転がっているんだよ。ちかちか光っているかと思うと、時々、蜃気楼みたいに霞んだりする。
月の砂漠には、人の数だけ夢がある。途方も無く、どんどんと夢が生まれている。だけど、そのままじゃ、夢で砂漠が埋まってしまう。
そうした訳で、月の砂漠にはバクがいるんだ。散らかった夢の欠片や、崩れた夢の残骸を、食べ歩いているんだ。
夢ってのは、忘れやすいものでもあるだろう。あれほど大切に心の奥底へ閉じこめていた筈なのに、何時の間にか失くしてしまっている。それは、バクが食べてしまうせいだ。
月の砂漠のバク君が、夢を捌きに、夢をバクバクと食べ歩く。何だか、一辺に言うと舌を噛んでしまいそうだね。でも、おじさんは、何度だって間違えずに言えるよ。
ツキノサバクノバククンガユメヲサバキニユメヲバクバクトタベアルク。
何故なら、おじさんの夢は、月の砂漠のバク君と密接な関係にあるからなんだ。
それはね。そいつをやっつける事なんだよ。