とある父親のはかりごと
「お前の娘は何処だ。」
後ろは崖であとがない。
丘の上の私の屋敷は燃え盛っている。
何もかもが燃え尽きるのだろう。
妻の遺した思い出とともに。
私は剣を構えながら自嘲めいた笑みを浮かべた。
「兄上は昔から謀の類いが得意でいらっしゃいましたね。
ですが思いもよりませんでした。こんな事をなさるとは。」
「…フローレンスよ、私たちは兄弟だ。
私だってこんな事したくはなかった。
けれど仕方がないだろう。兄である私を差し置いて、お前のようなボンクラでも当主の座につけてしまったのだ。
スペンサー家固有の祝福を持って生まれてきた者が当主になるという、
馬鹿馬鹿しい暗黙の了解があるせいで…。」
キンッ!!
「…ッ!」
「…お前とお前の娘さえ居なくなればスペンサー家の正当な後継者は、私ただ一人。
お前たちの死で周囲は私を怪しむだろうが、証拠を残すようなヘマはしていない。国王陛下も認めて下さるだろう。
そしていづれ皆気がつくのだ。祝福の有無などくだらないと。
私こそが真に、当主に相応しいと。」
フローレンスは背後の崖下をのぞいた。
「…やはり、兄上の謀のとおりになりそうですね。」
昨晩の雨のおかげで川の水傘は多いように見えるが、流石にこの高さから落ちては生きてはいられないだろう。
兄上は訝しげに私を睨んでいた。
「娘の侍女の実家を訪ねてみて下さい。
そこで娘の遺体を預かってもらっています。」
「…今何と言った。」
「…娘は既に亡くなっていると言ったのです。
追ってから逃げている最中、怪我を負って、病にかかり、あっさりと……」
カキンッ!!
私の剣が弾き飛ばされて崖の下へ落ちていく。
私はにっこり微笑んで、
何の躊躇いもなく崖を飛び降りた。
「…待てっ!!!」
ザパンッ!!!!
祝福の有無なんてくだらない。
そんなもの、無ければ無いで世の中うまく回っていく。
そこだけは共感できるよ、兄上。
祝福の有無は生まれてきてすぐに分かる。
体の何処かに痣のような印があれば、それが祝福持ちの証である。
娘にも祝福の印があった。
瞳の中に。
誰も気がついていないようだったから、私はあえて誰にも言わなかった。
―ソフィア…
その力、上手く使うんだよ。