7.オバケ
テストが無事に終わり、私はクラウスヴェイク先生と教室の片付けを始めた。
魔法の発動で備品の一部が壊れてしまったが、それについては特に何も怒られず、逆に先生が丁寧に魔法をかけて直してくれた。
試験用に運び込まれていた道具をまとめて廊下奥の倉庫に戻しに行きながら、少し考えた。
私は目の前のテストで頭がいっぱいだったが、こういう事前の作業も先生は一人で準備していたのだ。教師っ意外と大変なんだなと思いながら、倉庫のドアを閉めた。
その時、ピチョンと水音がした。
振り返って、辺りを見回す。
なんだろう、何かいる気がする。暗闇から、ユラユラと何かが少しずつ近づいている。
そしてまた、ピチョンと水音がした。
廊下に水音って、何?
早まる鼓動を手を当てて抑えながら、音がした方にゆっくり近付いた。
その瞬間、地面を何かが這いずりこちらに向かって来るのが見えた。
「きゃああああ!!!!!」
回れ右して全速力で廊下を駆け抜け教室に戻り、ドアを思いっきり開けた。
「先生助けて!!!」
恐怖で私はぼろぼろに泣きながら先生の元に駆け寄ると、先生はきょとんとしたまま私を見ていた。
「な······何を一体········」
「クラウスヴェイク先生!!オバケが出た!!倉庫!廊下が!!オバケ!!」
あまりの恐怖と混乱でまともな文章が口に出来ず、呆気にとられる先生を前にひたすらオバケと叫んだ。
「はぁ?」
呆れた先生を余所に、私の混乱はなおも続いた。
「うわぁぁぁん!!怖いよぁ!!」
鼻水は出るし、まともに立てないし、もう自分でも何が何だかわからないが、怖くて怖くてたまらない。
異常なまでに泣き叫び、床に座り込んでしまった私に、さすがに困ったように先生は手を差し出した。
「ほら、分かりましたから、いい加減······」
「うえぇぇ~ん、うわぁぁぁん!」
号泣は止まらなかった。
先生がはぁ、とため息をついて私の腕を掴んで起こそうとしたが混乱したままの私は、母に縋りつく子供のように先生の胸に飛び込んでしまった。頭は正常に働かずただ怖くて、誰でもいいから助けて欲しくて、1人になりたくなかった。
「ひっぐ······うぁ······怖いよぉ······っ」
勢いで先生まで床に座り込んでしまったか私はなおも先生の腰にしがみついて泣いていた。
先生は、暫く何も言わなかったけど、震えまくる間抜けな私の頭をゆっくり撫でてくれた。