64.エピローグ
爽やかな春の風が吹いた。
白く長い手袋の手元には、青くて小さい花束がある。真っ白なベアトップのドレス。いつもとは違う長いトレーン。
白いレースのベールを被り、一歩、また一歩歩いた。
目の前で待つのは、真っ白なタキシードに身を包んだ漆黒の髪とアメジストの瞳の美しい人。
私の命。
私の全て。
あなたのために私は存在している。
少し横を見たら、ステファニーさんが微笑みながら目に涙を浮かべていた。さらに横には涙と嗚咽で立てないユーリが椅子に縋りついていた。
前に向き直り、祭壇へ上がる。
神父様が祈りの言葉を捧げた。
私は神様より目の前の彼に釘付けだ。
真実の愛を誓いますか、と問われた彼が
「真実も愛も、全てを貴女に誓います」
と答えると、同じ問いに
「真実も愛も、全てあなたに捧げます」
と答えた。
神様の御前で口づけをするけど
知らない神様よりもあなたがいい
私にとっての神様はあなたがいい
あなたに誓い
あなたに捧げ
あなたに祈り
あなたに請う
「愛してます、貴女が死んでも永遠に」
「嬉しい。ずっと離さないで」
死んでも離してくれない狂ったあなたに、私もずっと狂い続ける。
骨になっても、土になっても、私はあなたの元に必ず還るの。
「幸せです、アロイス先生」
「もう『先生』は卒業しましたよ」
「じゃあ、私のアロイス」
「ああ、グッときますね。早くベッドに連れ去りたい」
「そういえば先生の部屋に変な本が増えてましたね」
「今日の日のために独学で修めました。なんでも教えて差し上げますよ」
「やっぱり先生は先生ですね」
「実技はこれからですから。たっぷり指導してあげます。覚悟なさい」
「······なんか目がほの暗い······闇の新郎って感じ········」
もう一度キスをして、私達は教会を出た。
空は真っ青で、わたしの水色の髪が揺れる。
「おめでとう!アロイス!ニーナちゃん!」
「うわぁあぁん、ニーナぁ!!」
笑うステファニーさんと泣くユーリと一緒に、私達は私達の家に帰る。
「やっぱり花嫁は抱き抱えて帰るのが常識ですよね」
そう言うなり私をお姫様抱っこした。
「それは一体どこの常識ですか?」
「私の常識で、私の願いですよ、花嫁さん」
「ふふ、アロイスが良いならそれでいいよ」
二人の唇が笑いながら重なった。
ねえ、愛するあなた
あなたが望むなら、全部叶えてあげるよ
あなたが喜ぶなら、何だってするよ
だからね、愛するあなた
きっとあなたの為に私はまた頑張るの
きっとあなたの為にまた命を削るの
だから私が死んでも傍にいて
私が貴方の役に立てなくなるその日まで
胸元で、アメジストの嵌まった鍵穴のネックレスが、シャランと揺れた。
最後までお読み頂きまして有り難う御座いました。




