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61.友達



春休みも終わり、私は3年生になった。

この学校で学ぶのもあと一年。学べるものはせっかくなので学ぼう。私の貧乏性は治らない。


「どいてよ、図鑑バカ」


クラスメイトの女子達に押されて持っていた花の図鑑を落としてしまった。最近は花や植物の本ばかり借りて見ていたから、またこれが彼女達の勘に触ったらしい。


「女性はなかなか怖いよねぇ」


そういいながら図鑑を拾ってくれたのは、長い銀髪の緑と金色のオッドアイの男性だった。


「ユーリ!どうしたの?」


「ん。紅茶の魔力成分表が出来たから渡しにきた。ついでに心配だったから顔見に来た」

「あはは。有り難う」


ユーリは私の頭をわしゃわしゃと撫でて、笑った。


「ニーナ、僕あれから考えたよ」


あれ、というのは私が入院していた時のことだろう。

私が目覚めたあと、ユーリは号泣していた。翌日私の元で静かに怒っていた。


「何故、君があいつの犠牲になる必要があった?」

「ユーリ?」

「僕は悲しかった。辛かった。君がこのまま死んだらどうしようって」

「ふふ········」

「なんで笑うの?」

「ユーリが自分で言ったのに」

「だから何が········」

「『悲しい?何故?あいつらの命はみんな将来の人間のために役に立つ。犠牲を払っているからこそ今の魔法薬があるんだ』そう言ってたよね」

「動物と君じゃ比較にならないよ!」

「一緒だよ、ユーリ。その動物が誰かにとって大事な存在なら、ユーリにとっての私と同じ存在なら、それはやっぱり悲しいことだと思わない?」

「·········!」

「一緒だよ、ユーリ。私だっていつかは死ぬ命だよ。アロイス先生のために有意義に使っただけだよ」

「······そんな風に言わないで!!」



あの時、ユーリは泣きながら帰ってしまったけど、ユーリの中で自分なりに消化してくれただろうか。


ユーリは図鑑を持ってる私の手に自分の手を重ねた。


「やっぱりどう考えても君と動物は違う。だけど」

「うん」

「あの時、君が言った『悲しい』の意味はなんとなくわかった気がする」

「そっか。わかってくれたのは嬉しい。ユーリ、有り難う」


にこっと笑うと、ユーリはつられるように笑った。


「あいつは、本当に魔法団辞めるの?」

「うん、あと一年で」

「そっか。まあ、毎回いなくなられてたらニーナの負担にしかならないしね」

「別に負担なわけじゃ······」

「ニーナ自身は決めた?将来のこと」

「いま構想中。でも先生と一緒に王都は離れるよ」

「······会いにいってもいい?」

「勿論だよ。ユーリは大事な友達だもん」


ユーリは嬉しそうに笑った。


「もしかしたらユーリにも助けてもらうかもしれない。私もユーリの助けになるかも」

「え、なに?何が?」

「また実験手伝ってくれない?」

「いいよ。友達の頼みだ」


二人で笑った。ユーリは大人なのに子どもみたいに楽しそうに笑った。



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