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59.目覚め side アロイス

 


 今日は雪がよく降っていた。着てきたコートにもあちこちに雪がついて、室内に入ると同時に水になって濡れた。


 向こう側から沢山の花を抱えた銀髪の男が歩いてきた。


「またそんなに持ってきたのか?」


 銀髪の男は目を伏せ答えた。


「ニーナは花は綺麗だから見ると嬉しいって言ってたから。花瓶もちゃんと持参した」


 病室のドアを開けて二人で入った。



 眠る彼女の傍らには、前日までにこの男が持ち込んだ大量の花がまだ生き生きとして飾られていた。


「花の中で寝てるみたいだな」


 ポツリと呟き頬を撫でた。



 魔力切れで死にかけていた私に、ニーナが自分の魔力を流し続け倒れた時、ニーナを助けたのはこの男だった。


 ニーナがステファニーさんと病室に来ていると聞いて隣の研究所から様子を見に来たこの男は、私の上で眠るように倒れていたニーナに自分の魔力を緊急に注入し、彼女の命を繋いだ。


 私は、翌日には目を覚ました。暫く動かしていなかった体がギシギシと音をたてたが、己の魔力は満ちていて頭の中にはネモフィラの上に静かに降る白い温かな光が見えた。


 隣で静かに眠る彼女に手を伸ばし触れたが、まるで反応が無かった。肌から溢れていた魔力は消え失せ、まるで白い陶器を触っているかのように無機質だった。


「戻ってきているよな?」

「ああ」


 尽きかけていた自身の魔力が、水滴が溜まるようにゆっくりとニーナの身体に戻るのを日々感じている。


 それでも彼女は目を醒まさない。あれから20日経っても。


「お前だって退院したの一昨日だろ」

「検査の為だけだ。体調に問題がある訳じゃない」


 ニーナの魔力注入は完璧だった。

 私が教えた通りに魔法は発動されていた。アメジストに入れてあった私の魔力を私自身に戻すという作業まで一人でこなして。


 あの作業は、ニーナにしか出来なかった。

 私の魔力に触れ合える彼女の魔力だけが、導入剤となり戻すことが可能となった。


 8割方魔力を戻したところで止めても良かった筈だ。なのに彼女は止めなかった。私の魔力が満ちるまで。


 夢うつつの中、何度も彼女の声を聴いた。

「戻って、戻って」と。




「ニーナ」


 私は彼女の手に触れた。以前よりは肌から感じる魔力量が増えていた。

 頬に触れ、おでこにかかる前髪に触れた。


 愛しい、愛しい

 私のかたわれ。比翼の鳥。


 動かない彼女の唇に自分の唇を重ねるようにキスを落とした。



 ふと、唇がわずかに動いた気がした。

 顔を離し、彼女の様子をじっと見つめる。


 花が咲くように、美しいブルーの瞳が見え、ゆっくりと瞼が開かれた。


「ニーナ········!」


 ぼんやりと(くう)を見つめ、それからゆっくりと左右を探すように瞳が動き、直ぐに私の存在を捉えた。


「ア······スせん····せ········」


 掠れた声が私を呼んだ。

 彼女の視界が私を写した。


 縋るように彼女を抱き締め私は泣いた。



 失うかも知れないと恐怖した

 自分のせいでと己を呪った


 それでも諦められなかった

 まだ、生きていたから


 彼女の声が、彼女の手が、彼女の心が

 私を求めたように

 私も彼女を求め続けた


「戻ってきてくれて、有り難う········」


 私は泣きながら笑った

 沢山の花に囲まれて、彼女は静かに笑った。



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