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57.言祝ぎ

 


 先生のベッドの上で、いつものように手を繋いだ。手のひらを重ね、指をひとつ、またひとつ折る。


「肌と肌を密着させます。慣れないうちはなるべく太い血管が流れているところに触れて下さい」


 私は先生のシャツに手を入れ、心臓の真上に片手を置いた。


「魔力を血液に流すイメージで、体内に少しずつ具現化します」

「具現化······」

「魔力球のような大きな物ではなく、血液に乗るように小さく、細かく、緩やかに、少しずつ」


 耳許でアロイス先生の声が響く。


 私は目を閉じ、私の魔力が先生に流れるように魔力を流した。


 その瞬間一気に私の魔力が動くのがわかった。どうしよう、止められない。


「······っ!大丈夫、落ち着いて」


 流れが止まった。砂時計のように入り口が絞られ、細く流れるように少しずつ流れ出る。


「先生、アロイス先生」

「······はぁ······ニーナ」

「私の魔力は気持ちいいですか」

「······気持ち良すぎるよ」

「喜んでくれて嬉しい。何度でも、何度でも、あげるから。だから······」

「ニーナ·······」

「私の元に帰ってきて」


 ギュッと手を握りしめた。


「私もあなたがいないと生きていけません」


 上気した先生が笑う。


「ああ、ニーナ。私達は比翼の鳥。どちらかひとつでは存在出来ない。二人でひとつなんです」


 そっと、心臓から手を離す。


 瞳を潤ませて、浅い呼吸を繰り返すアロイス先生がそのままベッドに倒れこむ。


 追いかけるように先生の体に重なり、またキスをした。


 深く、深く、刻みこむように

 あなたが私を思い出すように

 どこにいても忘れないように


 呪うように、キスを繰り返す


 これが恋でなくとも構わない

 狂ったように先生の名を呼ぶ


 呼応するように泣きながら私の名を呼ぶ先生

 私の身体に縋りつく先生を抱き締める


 誰が何と言おうとこれが私の感情の名

 私の言祝(ことほ)


「愛しています、アロイス先生」


 笑いながら呟くと、泣きながら応えた。


「私も貴女を愛しています、ニーナ」



 きつく抱き締め合い、先生の存在を確かめた。





 そして、アロイス先生は学校に来なくなった。


 始業式が始まって、3日経っても10日経っても、彼が戻ってくることはなかった。



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