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55.ニーナの実験室 2

 


「今日のステファニーさんの晩ごはんは何かなニーナ」

「私、エビフライ食べたいな」


 ユーリとアロイス先生との実験を始めて5日、あまり成果が出ないまま時間だけが過ぎていた。明日はもう新年になる。


 夕飯は毎日ステファニーさんのお店に行っていたので、ユーリはステファニーの料理が気に入っているように見えた。



 発育の早い品種を出来るだけ触って育ててみたが余り効能があるとは思えなかった。ユーリが葉を齧るが、「うーん」と唸るだけ。学校の飼育小屋にいるウサギにもあげたが、特段変わった行動は起こさなかった。


「やっぱり直接魔力を入れる場合と違って触った時間に比例して効能があがるのかも。だとしたらやっぱり時間がかかるね」


 ユーリは、短時間での植物栽培では難しいと判断した。


 私はアロイス先生からもらった紅茶が入った瓶に手を突っ込み揉み込みながら、やはり年明け休暇だけじゃ難しいかなと思い始めた。


「まあ、元々実験的に始めたことだから、失敗して当たり前なのかも」


 手が紅茶のいい香りに染まってくんくんと匂いを嗅いだ。


「ねぇ、5日間揉み込んだこの紅茶はどうかな。少し飲んでみない?」


 私は紅茶の瓶を寮に持ち込みひたすら揉み込み作業をしていた。


 私がティーセットに手をかけようとしたらアロイス先生が優しく腰を抱き、「私がやりますよ」と顔を近付けて言った。


 ここ数日、ユーリが常にいたからそんなに近くで微笑まれると正直とまどってしまう。


 先生が丁寧に紅茶を蒸らし、カップに注いだ。柑橘の爽やかな香りが漂う。


「普通に美味しいけど、それだけかな」


 私がまた失敗かあ、と肩を竦めていると、二人が紅茶を見つめたまま止まっていた。暫くして各々が紅茶を口に含みまた止まってしまった。


「二人ともどうしたの?」

「······ニーナは感じないの?」


 ユーリが紅茶を見つめながら話した。


「何が」

「この蕩けるような風味。口にした時の何とも言えない高揚感」

「柑橘でしょ?」

「違う」


 ユーリの頬が少し赤い。


「ニーナの魔力の味ですね」


 先生が笑いながら言う。


「かなり薄いですが、ああ確かにニーナの味だ」

「え?!成功?」

「すごい。ニーナの魔力ってこんななんだ。体が何だか熱くなる」

「魔力を直に入れるとこんなもんじゃないですよ。ああ、私しか知らないんでしたっけ」

「お前、ほんとムカつく」


 取り敢えず、成分を調べる為、一旦紅茶はユーリに預けることにした。ユーリは、一日にどのくらいの時間触ったのか、紅茶の量など細かく聞かれたがざっくりとしか答えられない私は研究者向きでは無いのだと思い知った。




 その後、年越しはみんなでステファニーさんのお店で過ごすことにした。


 ステファニーさんは、いつも以上に豪華な料理を用意してくれて、ユーリとアロイス先生は二人でワインを何本も開けていた。


 私はステファニーさんとアロイス先生のあの昔のおうちの話や街の話をしながら、いつか皆で楽しく暮らす夢を語った。


 みんな笑っていた。

 私も笑っていた。


 いつかは、アロイス先生とステファニーさんとあの青い屋根のおうちでごはんを食べよう


 週末にはユーリも呼んで

 大人になったら私も一緒にお酒を飲ませてもらうんだ


 たくさんのお花に囲まれて

 大事な人達の笑顔に包まれて


 きっと楽しくて幸せな毎日が続くの


 私は未来を信じて目を閉じた

 明日が必ず来るものだと信じて


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