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41.躾 1

 


 教室内はしんとしていて、午後の日差しだげが室内に入っていた。


 先生は抱えた私を窓の縁に座らせた。ゆっくりと手袋と眼鏡を外し、そのまま項垂れた。


「先生······」


 先生は顔を下に向けたまま、まるで表情が読めない。レースのカーテンから木洩れ日がさして、先生のさらさらの黒髪に当たって揺れていた。


「どれだけ、心配したかわかっていますか」


 後ろのレースのカーテンごと先生は私を抱き締めた。


「········ごめんなさい」

「謝って欲しいんじゃない。ニーナ、何故ユーリ・ブラウエルを拒絶しなかった?」

「え?」

「『嫌いじゃない』と言いましたね。あいつにはアレが全てだ。また君を求めてあいつは来る」


 そこだけを切り取られると、まるで悪女のようだ。だが彼にその部分しか意味がないのであれば悪いのは私なのだろう。


「ニーナ」


 先生の抱き締める力が強くなる。一呼吸置いて、ゆっくりと顔を上げた先生は泣きそうな顔をしていた。


「私が貴女と『家族になりたい』と言ったのは貴女に私の妻になって欲しいからです。養女にしたい訳じゃない········!!」


 先生の美しい顔が悲しく歪む。


「こんなに貴女が好きなのに、私は貴女を愛しているのに········」


 先生の紫の瞳に涙が見える。


「どうしていつも貴女に伝わらない·······!!」


 ホロリと、瞬きのその時に頬を伝った。


「先生、私は先生のこと好きで········」


 先生の頬の涙に触れると咬みつくように声を上げた。


「貴女のソレは恋じゃない!!」


 ビクっと、思わず手を離した。だけど離したはずの手をすぐに掴まれそのまま頬に戻された。


「苦しいです。ニーナ。私はこんなに貴女に恋焦がれているのに」


 ホロホロと、あまりに綺麗な涙を溢す先生に私は何を言って良いのかわからなくなった。先生は涙が伝う私の手に何度も口付けをした。


「······怒鳴って······すみません。私が怖いですか?」

「アロイス先生は怖くない。きっと······私が悪い」

「貴女が悪いわけでもないんです。いや、私の伝え方が悪かったんです。焦りすぎました」

「······先生······」

「でもね、ニーナ?」


 先生の紫の瞳が揺れる。


「貴女にもいい加減わからせないといけない。貴女にちょっかいをかける虫共を少しでも減らすためには、貴女にも少し躾が必要です」

「······しつけ??」


 ぱちくりと目を瞬かせると、掴まれた手の力が強くなった。


「私の思いがいかに貴女に向いているのか、私の恋がどんなものか、しっかりとその体で覚えてもらいます」


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