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39.修学研修 4

 


 3日目になると、だんだん仕事にも慣れてくる。


 今日は、枯れかけた古い葉や、余分な葉を落として養分が作物に行き渡るように剪定作業をしている。


「やっぱりなんか楽しいな植物育てるの」

「ニーナは植物が好き?」

「嫌いじゃないかな。学校卒業したら、ここで雇ってくれないかな」

「ニーナ植物園で働きたいの?」

「うん。好きな事を仕事に出来たら嬉しいかな。動物園の方でもいいけど」


 葉っぱをプチプチと抜きながら話をする。


「ほんとに変な子だね、ニーナ。あの動物達は研究所で実験に使うために飼われているんだよ?」

「······実験······?」


 ユーリの言葉に思考が止まった。私はここの動物達は観るためや、子供との触れあいのために飼われていると思っていた。


「いつかは死ぬ命だ。有意義に使うほうがいいだろ?」


 そうだけど。それはわかるけど。そうじゃなくて。


「········ユーリは、悲しいとは思わないの?」

「悲しい?何故?あいつらの命はみんな将来の人間のために役に立つ。犠牲を払っているからこそ今の魔法薬があるんだ」


 それはわかる········わかってるけど······


「それともニーナは実験は無しにいきなり人間で試したほうがいいと思う?」

「······そうじゃなくて······」


「ニーナは食事のときにお肉を食べるでしょ?あれは動物の犠牲の元に、人間が生きているってことでしょ?食事ならよくて魔法薬はだめなの?」


 わかってる。私の感情はただの偽善だ。


「········ごめんなさい」

「なんで謝るの。変なニーナ」


 ユーリの言葉は、研ぎたての刃物みたいで一番痛いところを刺してくる。



 ふと、アロイス先生ならきっと私には違う言い方をしただろうと思った。


 昔の先生は確かに言葉がキツかったけど、きっと今ならユーリのようには言わない。刃は鞘に納め、さらに真綿にくるみ、私が傷つかないように優しく伝える。


 先生とユーリは違う。比べるのもおかしな話なのに。


 いま、とてもアロイス先生に会いたい。

 私はきっと甘ったれの子供なんだろう。



「ニーナ、何考えてるの?」

「········アロイス先生に会いたいなって」


 ユーリが突然私の手を握った。


「僕といるんだから、僕のこと考えてよ!」

「ユーリ?」

「なんでそいつのことばかり」


 ユーリは私の土まみれの手を取って、自分の頬にくっつけた。


「ユーリ、汚れちゃうよ」

「ニーナは温かくて優しい」

 ユーリは悲しそうに溢した。

「そいつには僕よりも優しくしてるの?僕よりも温かくしてるの?」

「········ユーリ?」

「誰も僕に教えてくれなかった。ニーナだけなんだ。人の手があったかいって教えてくれたの。ニーナだけなんだ、僕に触れるの」

「ユー······」

「甘い甘い香りで僕に触れてくれるニーナと僕も家族になりたいよ。アロイス・クラウスヴェイクとの約束は卒業後だろう?早い者勝ちだよね」


 心臓が早鐘を打ち始める。


「ねぇ、ニーナ。僕と家族になったらその甘い魔力も僕にくれる?」


 おかしい。今まで見えてた目の前の映像がブレ始める。


「僕の魔力もたっぷり注ぎこんであげるから」


 妖精みたいに細くて小さかったはずの体は、私よりずっと背の高い胸板の厚い軍人みたいな体に見える。


「友達も家族もいいけど僕はニーナの恋人になりたいな。結婚してニーナの一番大事な人間になりたいよ。僕の全てをあげるから」


 グラデーションのグリーンの長い髪は、輝く銀色の髪に。高かった声は、低い声に。


 掴んだ手の力が強くなる。小さな少年の力じゃない。


 シュルシュルと、蔦の植物が体に巻き付く。足からゆっくりと、這い上がり絡めとられ身動きが取れない。


 口元にまで蔦が巻かれ、声がでない。


「君は僕が手に入れる」


 金と緑のオッドアイだけが変わらず私を見つめた。



 体が震える。


 怖い。


 助けて、助けて!アロイス先生!



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