38.修学研修 3
「ニーナ、そこに埋めて?」
「わかった」
修学研修2日目、今日は土を掘り起こし種を埋めている。土魔法の得意なユーリが上手に土を柔らかくし、私が指で穴を開けて、種を置いた。丁寧に土を被せて水魔法で水をあげているとユーリが不思議そうに覗き込む。
「なんで手で土被せるの?魔法使えばいいのに」
「こうした方があったかい気がしない?」
「あったかい?」
「土のお布団」
ユーリはまじまじと私を見て「やっぱりニーナって変な子だ」と言った。
「僕もやってみる」と言って、土に置いた私の泥だらけの手に自分の手を重ねる。
「ほんとだ。あったかい」
「それは土じゃなくて私の手だよ」
「じゃあニーナがあったかいんだ」
体温のことを言っているのはわかるのだが、なんとなく違う意味に聞こえて少し照れる。
「この花はどんな色で咲くのかな」
「これは赤と白半分ずつ」
「そっか。楽しみだね」
「なんで楽しみなの?」
ユーリは不思議そうに聞く。
「お花は綺麗だから。見ると嬉しいでしょ?」
「でもこれは研究所の奴らがすぐ使っちゃうよ?花なんか誰も見てない」
「それでも。一瞬でも見られるなら、頑張って咲いてくれたのなら楽しみだと思う」
そう言うと、ユーリの瞳がキラキラ光を帯びていた。
「ニーナは僕が考えたことないこといっぱい知ってるんだね」
「え、別に知ってる訳じゃないよ。勝手に思ってるだけ」
「ねえ」
手を土まみれにしながら、ユーリは私に顔を近づけた。
「ニーナを知ったら僕もニーナみたいになれるかな」
「私みたいになったらダメだと思うけど」
「もっとニーナが知りたい」
あまりにもその美しい顔が近かったから、私は無意識に顔を後ろに離した。
「なんで離れるの?」
「なんとなく」
変だな。アロイス先生の端正な顔にはもっと傍に寄りたくなるのに。やっぱり妖精みたいだから、気になるのかな。
午後は、苗を植えた。これは大きくなると実が成るそうだ。
「実は食べれるの?」
「そのままじゃ食べれないよ。でも魔法薬の材料には欠かせない」
「ユーリは博識だね。植物のことなら何でも知ってそう」
「うん。知ってる」
「凄いね」
「でも、ニーナのことは何にも知らない」
午前中からやけに私の事を知りたがるなあと思いつつ、友達に成り立てってこんなものか?と考えるも、過去の情報が昔の事過ぎて思い出せない。
「ニーナは何が好き?何が嫌い?」
今回は苗を手で植えながらユーリが聞いてきた。
「うーん、好きなのはアロイス先生。嫌いなのはオバケ」
土をかけながら答えると、ユーリが手をピタリと止めた。
「アロイス先生って?」
「アロイス・クラウスヴェイク先生。私の闇魔法の先生。すごく優しくてあったかい人」
「········ニーナは、そいつが好きなの?」
「うん。学校卒業したら、家族にしてくれるんだって」
私は次の苗を植えながら話し続けた。
「········僕もニーナと家族になりたい」
ユーリが小さく溢した。
「アロイス先生に聞いてみるよ。ユーリも仲好くなったら家族にしてもらえるかも」
「そいつと家族になりたい訳じゃないよ。ニーナとなりたいんだ」
ユーリは不貞腐れるように言った。




