37.修学研修 2
秋になり修学研修の日が近づいてくるにつれて、クラスメイト達は浮き立っていた。近隣の公共施設にしか行けない私に「そんなド貧乏なやつこのクラスにいるの?かっわいそー」と絡んできたが、私は無視して土魔法と水魔法のテキストとにらめっこしていた。動物園や植物園で必要になるかもしれない魔法をおさらいをし、当日に備えた。
週の最初の授業を受け、アロイス先生には明後日から修学研修にいくと伝えた。週末はまた先生のお宅にお邪魔するのに先生はやけに心配そうな顔をしていた。
・・・・・・・・・・
修学研修当日、私は乗り合い馬車で現地に向かった。
学校前の乗り合い馬車留まりから、揺られること約30分、動物園と併設の植物園に到着した。
ここは王立の施設で、植物園はドーム状の大きな施設であり、動物園の方が付属といった感じのこじんまりとした小さな屋外施設だった。
動物達も小型のものばかりで、ウサギやモルモット、ヤギ、羊、ロバなと、私の故郷では当たり前に家畜として飼われているものばかりだった。
「これが王立の動物園なの?随分ショボイ······」
動物園の人に声をかけたら、植物園のドーム内に事務室があるからそこにまず言ってくれと言われた。
植物園のドームは外から見ると本当に大きくて、事務室がわからない私は警備員さんに事務室まで連れていってもらった。
事務室に到着するなり、男性の職員らしき人と挨拶を交わすとカラカラと笑って握手をした。
「学校の生徒さんだから、あまり無理なことはさせませんよ」
私の仕事は植物園内部で、苗の植え替えや種を選別する仕事だった。先に同じように仕事をしてる人がいるからその人に教わるように言われ、出勤と退勤のタイミングだけ事務室に顔を出してくれればいいとのことだった。
「出勤、退勤って、修学研修じゃなく本当に勤務扱いじゃない」
一人で現場の温室までの地図を見ながらぼやいた。
温室はたくさんあったか、私が担当するエリアは魔法薬の材料となる花のエリアだった。
温室のドアを開けると、花のうっすらとした甘い香りがする。道を歩きながらゆっくりと周囲を見回すと大小の植物の間に置かれているイスに座って丸テーブルで何やら小さなものをいじっている人を見つけた。
「あの······」
声をかけると、その人はじっとこちらを見た。
すごい綺麗な子。
初めて見てそう思った。腰まである髪は長くストレートで頭部は白っぽいが毛先にいくにつれてグラデーション状にグリーンになっている。眉も睫毛も白く雪のようで、瞳は左が緑、右が金色のオッドアイだった。
私と同じくらいの年齢に見えるが、性別がわからない。わからないくらい綺麗。超越してる感じ。眉を下げてこちらを伺う表情はまるで妖精のようだった。
「君········だれ?」
「あ、はじめまして。魔法学校から修学研修できましたニーナ・フランテールと申します」
「ああ、聞いてる」
「4日間こちらでお世話になりす。宜しくお願いします」
将来の就職の期待も込めて私は丁寧に挨拶をした。
「初めまして。僕はユーリ・ブラウエル。ユーリでいいよ。学校の生徒さんが来るなんて久しぶりだな」
ユーリは黒いタートルネックの上に白衣を纏っていた。
「あ、えーと、ユーリさんはここの職員さんですか?」
「いや、違う。あ、········えーとね、僕別の学校から来た」
「あ、じゃあ修学研修ですか?私と同じですね。私2年生なんです。ユーリさんは?」
「同じ。ユーリって呼び捨てでいいよ」
「じゃあ私もニーナって呼んで」
同い年の気安さから、ついつい敬語を忘れて話し出してしまった。ユーリは、仕事の内容について教えてくれて、一緒にテーブルを囲んで質の良い種を選別していった。
「よく見ると種って全部違う形なんだね」
私は小さな種を摘まみながら私達は話をした。
「人間と一緒だよ。みんな違う」
「ほんとだね。あ、この種すごく小さくて中身が小さそう。育たないかな」
「貸して」
ユーリは私の手から、ひょいと種を取り上げる。ふと、白い手袋をしているのが気になったが、彼は銀髪でも大人でもない。種の選別の作業用に手袋をしているだけかもしれないので深く考えるのを止めた。
ユーリは、じっと種を見つめてから手袋を外して両手で丁寧に包んだ。一瞬ふわりと風が動いたかと思うと、手を開きにっこり笑って種を返してくれた。
「わぁ!ユーリすごいね!種がおっきく育った!」
「僕の魔力を入れた。僕土魔法が一番得意なんだ」
「スゴイスゴイ!私ね、まだ自分の魔力を物に入れるって習ってないんだ。ユーリの学校は授業の速度早いんだね」
「そうかもね。この種ニーナが植える?」
「うん!やりたい。私が見つけて、ユーリが育ててくれた。きっと頑張って花を咲かせるよ」
「········ニーナって変な子だね」
ユーリは白い手袋を外したまま、種を私の手にそっと返してくれた。
「ニーナ、良かったら友達になってくれない?」
「ほ、本当?私、学校には友達いないから、ユーリが友達になってくれるの凄く嬉しいよ」
「じゃあ握手」
ユーリはニコニコ笑って私と握手した。本当に妖精みたいに綺麗。素手もスベスベで指が長かった。
「一応聞くけど、ユーリは人間?男の子?女の子?」
「人間だし、男だよ」
「あんまり綺麗だから、妖精かと思った。人間で良かった」
私達は、楽しく会話をしながら作業を進めた。お昼ごはんはユーリが、植物園のカフェに連れていってくれて、二人でお喋りしながら食べた。
私は久しぶりの『友達』がすごく嬉しくて、勤務時間いっぱいユーリと笑いあっていた。




