36.修学研修 1
その日私はクラス担任から配られたプリントを見て驚愕した。プリントには「修学研修」と記載されている。学年全員でとある地域に行き、団体生活を宿泊込みで学ぶというものである。つまりはただの旅行だ。
参加は任意ではあるが、毎年学年ほぼ全ての生徒が参加する。参加コースには種類があり、国外の王都をまわるコース、国内の有名観光地をまわるコース、学校近隣の動物園・植物園をまわるコースだ。前者2コースは勿論ホテル宿泊で自費負担が原則だ。
「ごめんね、フランテールさん。旅費負担が必要ないのは動物園と植物園のコースだけなんだ。奨学生の君には酷だとは思うんだけど······」
クラス担任は申し訳なさそうに告げた。
「いえ、行かせて頂けるだけ有難いです」
「そう言ってもらえると有難いよ。それにこのコースは実際に園の職員として働けるんだ。内部を見るチャンスだよ!」
それはつまり、体のいい労働力の提供······無償アルバイトじゃないですか。賃金発生しない分ボランティアというべきか。ただし私に奉仕の心は一切ない。
「泊まりじゃなくて、自宅からの通いで3日間だよ。現地までは乗り合い馬車でいけるよ」
私は3日間の勤労生活をすることが決まった。
・・・・・・・・・・
「と、いうことで3日間動物園と植物園で働くことになったので、その週の闇魔法授業は1回しか受けられなくなりました」
授業中アロイス先生に報告すると、先生は少し困ったような顔をした。
「ニーナが別の行程に行きたいなら、旅費負担くらい私が出しますが」
「行きたくないです。クラスメイトと泊まりとか、死んでも嫌なので、動物園と植物園で充分です」
それに私は動物も植物も嫌いじゃない。夏休みは一人で飼育小屋と魔法菜園を切り盛りしたのだ。意外と性にあっているかもしれない。
「うまくいけば卒業後に雇ってもらえるかもしれません」
私は拳をぐっと握りしめた。
「ニーナは、卒業したらやりたいことでもあるのですか?」
「現在模索中です」
「そう······ですか。では、その、私の、お······お嫁さん······とか······」
脇で急にゴニョゴニョと独り言を呟く先生をよそに、私は飼育員さんとか、有りだなと一人で妄想していた。
「あの、ニーナ、聞いてますか」
「すみません先生、聞いてませんでした」
アロイス先生はがっくりと項垂れた。
「はぁ、とにかく。行く時は必ずネックレスを着けてください。少し気になることもあるので」
「気になる·······動物園がですか?」
「いえ、併設の植物園の方です」
「何かあるのでしょうか」
「魔法団の研究所が近いのです。研究所では一部の植物は植物園のものを使っています」
どちらも王立だから、仕事の関係があれば互いに行き来しているのかもしれないなと思った。
「もし、銀髪の男を見たら逃げなさい」
「え?」
「長身で私と同年代の魔法使いです。逃げられなければ、思うだけでいい。私を呼びなさい。必ず助けに行きます」
「銀髪で長身········」
「杞憂であればいいのですが」
アロイス先生が私の手をギュッと握った。




