35.鍵穴のネックレス
翌朝、先生は目の下に隈を作りながら私にネックレスを手渡した。
「わぁ、綺麗······っ」
ネックレスは金色の少し大きな鍵穴モチーフで、大きな涙型のものの周囲にたくさんの小さなアメジストが組み込まれていた。
「アロイス先生!すごい!なにこれ!」
「元々作って渡そうと準備はしてたのですが、コーネインの一件があったので夜中のうちに作ってしまいました」
「先生、隈がある。徹夜して作ってくれたの?」
「いや········これはちょっと貴女の可愛い拷問を思い出すと寝れなかっただけで········」
アロイス先生はなんだかゴニョゴニョ言っているが、私は聞いちゃいなかった。
「すごい!すごい!キラキラしてる。先生の瞳みたい!······なんで鍵穴モチーフ?」
「モチーフじゃなくて本物の鍵穴です。鍵は私自身になります」
「えっ?!」
「貴女の危機があれば、強制的に私自身を召喚するよう魔法を組み込んでます。」
「す、すごい!」
「大小のアメジストに私の魔力を大量に入れてます。これだけは以前から時間をかけて準備してたんですが。少なくなったらまた補充できますから」
「私、先生を召喚出来るんですね!先生、私の胸から飛び出てくるのね!」
「む、胸?!」
「だってネックレス胸元にあるんですもん。普段は私の胸で温めて、いざとなったら先生ここから出てくるってことでしょ?」
「······ちょ、ちょっと待っ········」
先生は急に顔を赤らめて鼻を押さえた。
「きゃあ!先生、鼻血出てる!寝不足で体調悪かったんですね!早く横になって!」
私は体調不良の恩師を見守りつつ、来週末から始まる授業でまた会う約束をしてその日は自宅へ帰った。
・・・・・・・・・・
アロイス先生の自宅を後にした以降、学校でコーネイン先生にまたあったらどうしようと少し不安だったが、あれ以来コーネイン先生を見かけることはなかった。
始業式が始まり、また授業が再開するとクラスメイト達はだるそうだったが、私は一人イキイキしていた。
アロイス先生との闇魔法授業が復活したのが嬉しかった。復活後、最初の授業で真っ黒なスーツとベストに身を包んだ足の長い先生が教室に入るなり、我慢しきれなくて私は先生に飛び付いた。
「授業中ですよ」なんで言いつつも、先生は私がくっつくのを止めはしなかったし、壇上には上がらず隣同士椅子をくっつけて授業してくれた。
2時間の授業をきっちりこなした後、二人で久しぶりにステファニーさんのお店にいくことにした。
「ニーナちゃん、アロイスも。久しぶりね、元気だった?」
相変わらずニコニコと笑うステファニーさんは、今日は特製デミグラスハンバーグを出してくれた。
「ハフハフっ!お~いひぃい!!」
濃厚なソースにハンバーグを絡めて食べるとなんとも言えない幸福感に包まれた。
「ニーナ、ついてますよ」
横からアロイス先生が紙ナプキンでそっと拭いてくれた。
「お料理のお勉強のほうはどお?二人で頑張ってる?」
「それが、私が不器用過ぎて先生がほとんど作ってくれています」
「あらまぁ、そんな気はしてたわ、ウフフ」
ステファニーさんは優しく笑った。
「まぁ、ニーナちゃんは近い将来アロイスの家族になるわけだし。そうしたら私の娘みたいなものだから、どちらが作っても、なんなら私が毎日作ってあげてもいいわよ、ウフフ」
「えっ?!私、先生の家族になるの?!」
私は先生の方を向くと、彼はコクンと頷いた。
「卒業したら意地でも家族にします」
キリッと真剣な表情で、先生は断言した。
「やったあ!!私、先生の養女になるのね!嬉しい!」
「えっ?!違········っ」
私は先生の家族になれるんだ。なんて素敵。心がワクワクと踊り始めた。
「あらあら、やっぱりまだまだね、アロイス」
ステファニーさんは眉尻を下げてクスクス笑った。
「そういえば」
最近、学校でコーネイン先生を見かけなくなった。最後に会った時は怖いことを言われたので、少し気になってアロイス先生に尋ねてみた。
「あのバカはしばらく入院しているので来ません」
アロイス先生はハンバーグを食べながら素っ気なく言った。
「ご病気ですか?」
「二度と変な気が起きないよう、躾ておきました。ついでに、顔面になかなか治らない呪いをかけておいたので人前に出たがらないんですよ」
ニヤリと笑う先生は、酷く楽しそうだ。
「あの女好きにはいい薬です」




