34.魔法使いのキス
「ちゃんと意味を理解してますか?」
「わかってます」
「後悔はしませんか」
「私、先生に魔力を入れてほしいです」
先生の顔がぼっと茹で上がったようになる。
「貴女は······まだ私を好いている訳ではないのでしょう?」
「好きですよ?」
「それは恋愛的な意味で?」
「恋愛······?」
きょとん、と見つめると先生は目頭を押さえて深いため息をついた。
「アロイス先生、私は今心のままに思うことをしようと思って言ったんです。私、先生を尊敬してます。一緒にいたいです。役に立ちたいです。先生がそう望むなら、搾取されて殺されても良いですよ?手錠で繋ぎたいなら、繋いでもいいですよ?」
「いや、手錠とかちょっといいかも·······じゃなくて、そんなことしませんから。搾取もするつもりもないです。そうではなくてですね。その、私が言いたいのは········あの」
なんだか歯切れが悪い先生に、だんだん何が言いたいのか理解出来なくなってきた。
私は自分からガバッと先生に抱きついた。反動で先生がベッドに倒れ、私は覆い被さるように先生の胸板に抱きつく。
「最初に魔力入れてくれるって言ったのは先生じゃない!なんで嫌がるんですか?」
「嫌がる訳ないです!」
「じゃあ早くいれて下さい!コーネイン先生に盗られてから体調だってあまり良くないんですから」
「それは······そうなんですが」
「私、ちゃんと先生のこと好きですよ?先生は私が嫌い?」
「大好きです!!」
「じゃあ、『魔法使いのキス』しても問題ないのでしょう?」
「だから、貴女の好きと私の好きには大きな溝があってですね」
「········先生が魔力入れてくれない、ぐすん」
「入れます。入れましょう!」
泣き真似して脅したら、先生はあっさり許諾した。
いつものように手を重ね、指を一つずつ折り、先生の手の甲にぴったりと重ねる。
今日は私が先生の上にいるから、先生のほっぺたにキスをした。
「アロイス先生、好きです」
「うっ······こんな拷問は初めてかも······」
なんだか変な顔してる先生の顔の下に私も顔をくっつけた。
片手で私の背を抱いて、ゆっくりと先生の魔力が体内に入ってくる。
ああ、先生だ。温かい。
目を閉じると、キラキラした紫のたくさんの輝く星が私の中で踊っているように見えた。回りにどんどん星が増えて、嬉しくなる。
トクトクと心臓の音がはっきりしてくると、だんだん気持ち良くなって気分が高揚してくる。
「はぁん、先生、気持ちいい······」
「········あぁ······もう、理性が焼ききれそうなんですけど」
気が済むまで先生の胸の中で魔力を貰い、甘やかしてもらった。
その後、今日は外出せずに私の勉強を見て貰い、ごはんはステファニーさん特製レシピのトウモロコシのポタージュとオムライスを作った。わたしはトウモロコシをすりおろしただけで、今日も9割はアロイスシェフが作ってくれた。死ぬ程美味しかった。
気がつくと、夜になっていて私は自分からタオルとお着替えの先生のシャツを貸してくれるように頼むと、はにかむように先生は笑った。
そのまま、いつものように満天の星空を見ながら、手を繋いで私は眠った。
この数日の中で、一番安心して眠れた日だった。




