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31.キレる教師

 


 朝、目覚めるとまだ少し体調が悪かったけど、今日はアロイス先生に会える日。ワクワクしながら準備をした。


 たった二週間会っていないだけなのに、もう何年も会っていないように感じられる。


 先生が選んでくれたワンピースを着てたくさんのテキストを持って意気揚々といつもの住宅街に行く。ポケットから黄金の鍵を見つけて嬉しくて、笑いながら鍵を開けた。


 開けたと同時に、真っ黒な服に身を包んだアロイス先生が笑いながら迎えてくれる。


「ニーナ!」

「アロイス先生!」


 どちらからともなく両手を差し出し、私は先生の胸に飛び込んだ。


「お久しぶりです、アロイス先生」

「ずっと貴女に会いたかったです、ニーナ」


 先生はいつも以上にぎゅうっと私の存在を確かめるように抱き締めた。


 ああ、アロイス先生だ。なんて温かい。


 抱き締められたまま、先生の顔を見ようと上を向くと、さらりと流れる黒髪の間から、紫の瞳が光を帯びて輝いたのが見えた。



「ニーナ、体調悪いですか?」


 目と目が合った瞬間、先生が気づいた。


「あ······えっと」


 紫水晶のように光が入り瞳が揺れる。


「魔力が······抜き取られてる?」

「せんせ········」


 すっと目が細められ、アロイス先生の表情が冷える。


「何処の········どいつにやられました?」


 周囲の気温が一気に冷えて、背筋が凍る。


「ニーナ」

「は······はひっ」


 別に私が責められてる訳じゃないのに、もの凄い圧を感じた。


「どこの魔法使い(くそやろう)ですか?私の可愛いニーナに傷をつけるなんて」


 こっわ!!完全に目が座ってる!!


「死なない程度に八つ裂きにし、魔物と同化させ拷問を繰り返した上で(なぶ)り殺しましょうか」


「アロイス先生········っ」

「ニーナ。庇いたては無用ですよ、魔力を奪うなんて冗談にもならない。貴女の魔力状態からして、魔法の使用による魔力欠乏じゃないことは明らかです。どう見ても誰かに盗られたあとだ」


 さすが一流の魔法使い。魔力の状態まで判るのか。ここで変に隠してもバレるだけだ。それに庇うような相手でもない。


「······コーネイン先生に持って行かれました」

「あのクズか······そうですね。学校にいる魔法使いは私と彼ぐらいですからね」

「すみません、先生」

「貴女が謝る必要なんて無いです。怖い思いをしたのではないですか?」


 アロイス先生はポンと、頭に手を乗せて言った。その瞬間に、私の涙腺が昨日の記憶と共に決壊する。


「せ······せんせ······アロイス先生······っ私は、あなたの邪魔になっているのではないですか?」

「何を馬鹿なことを········」

「私はアロイス先生の足枷になっていると、だから、もう解放してあげるように言われて······っ」


 ボタボタと涙が零れた。


「私、離れたほうがいいのでしょうか······?」


 喉の奥が焼けつくように痛い。苦しい。


「ニーナは、私の話をちゃんと聞いていましたか?傍にいてほしいと伝えた筈です」

「うぅ······っ」

「むしろニーナが私から離れたら、私は怒りの余り魔法団も学校も物理的に木端微塵に破壊してしまうかもしれません」

「うぇ······っ?!」


 びっくりして鼻水が出てきた。


「絶対に私のもとから居なくならないでください。国も滅ぼしてしまうかもしれません」

「は、はい」


 まさかそこまでの命運を私が握っていただなんて。


 先生は、再び私をきつく抱き締めた。そのまま、膝裏に手を入れ抱き抱えて寝室に連れていかれた。



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