30.足枷 3
気がつくと、私は保健室で一人で寝ていた。
体がまだフラフラしていた。ということは、魔力は抜かれたまま、コーネイン先生のものを入れてはいないということだ。
「良かった········」
私の中に、アロイス先生以外の誰かの魔力が流れることに初めて怖くなった。
ぎゅっと、両手で肩を抱き、えもいわれぬ不安感が胸を襲う。
大丈夫、明日になれば先生に会える。
コーネイン先生の言葉はアロイス先生のものじゃない。
落ち着け、落ち着け。
邪推するな。アロイス先生を疑うな。
枕元に置いてあったネモフィラの押し花を握りしめ、そっと胸に抱く。
『ニーナは、私の役にたちたいのですか?』
『私の傍にいて下さい』
『それが私の望みです』
『私の役に立ってくれますか?ニーナ』
ひとつ、ひとつ先生の言葉を思い出す。
あのたくさんのネモフィラの花が一斉に咲き乱れるように、私の中に先生の言葉が咲いていく。
「温かい········」
胸から喉から押されるように、また涙が出てきた。
キラキラと光るアメジストの瞳。先生の色。
しっかりと私の中を流れた先生の魔力。輝く紫の光。
思い出した。もう大丈夫。
「明日また会いに行きます、アロイス先生」
誰もいない保健室で、私はネモフィラの押し花を胸に呟いた。




