29.足枷 2
頭の中は真っ白で何も考えられなかった。
ゆっくりと近付き、手を伸ばすコーネイン先生は私の首から頰をなぞるように触れた。
視界には入っているのに、頭には何も入ってこない。
先生、アロイス先生
私はあなたの足枷だったのですか?
「········やっぱりそうか、君は」
コーネイン先生が両手で私の頰に触れる。
アロイス先生、アロイス先生
あなたにとって私は邪魔にしかなりませんか?
涙がとめどなく流れ、もう止めることは叶わない。
「君は『甘露の泉』だ······!」
その瞬間、体から抜ける魔力でくらりと眩暈がした。早い速度で抜かれる魔力に、足許が一気に崩れた。
がしっと体を掴まれ、崩れる前に抱き上げられる。
「あっはは······!なにこれ、スッゴい美味しい。まさかこれ程とはね。嫌っている僕ですら、こんなに甘美な味を出してくれるんだ、心を許した相手にならどれ程の味になるのかな」
声が出ない。涙で前が見えない。
アロイス先生。アロイス先生。
「あんまり一気に抜いちゃうと死んじゃうからね。今日はこれくらいにしてあげる」
声が出ない。体が動かない。
「少しずつ、僕と仲良くなろう?大丈夫、ちゃんと結婚してあげる。たくさん愛してあげるよ。アロイス先輩は狡いね、あんなに才能に恵まれて、こんな美味しい子を独り占めしてたなんて」
離してと言いたいのに。助けてと叫びたいのに。
「ふふ、まあ、先輩からしたらこの子が最初で最後、唯一気兼ねなく触れられる子だったろうね。魔力の波動が肌から溢れ出してる。中身はどんな属性者をも虜にする『甘露の泉』だもんなあ」
アロイス先生········
「君は、全魔法使いが求めて止まない珠玉の宝石だよ、ニーナ・フランテール」
ポケットから、ネモフィラの押し花がハラハラと落ちた。
私はそのまま堕ちるように意識を手放した。




