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27.ネモフィラ 2

 


「すみません。あまりの花の美しさに眼がやられました」


「花よりも、貴女のほうが美しいんですけどね」


 凄いお世辞が飛び出したが、そのままランチの準備をした。


 木のコップにアイスティーを入れて、バスケットの中のサンドイッチを大きく頬張ると甘めの卵の味がふんわりと広がる。


「んむ、ふぇんふぇー、おいひいへふ」

「そうですか?貴女のほっぺたはリスみたいですね」


 モゴモゴとサンドイッチを口に入れていたら、「ついてますよ」と言って唇の脇についていた卵を手でとってくれた······と思ったらそのまま食べた!!


「本当に美味しい······ニーナの味がする」


 と言ってペロリと舌を舐め回す先生はセクシー過ぎて全世界の女達が卒倒しそうな気がした。


「魔法団のお仕事は大変ですか?」

「さあ、慣れてしまいましたから」

「魔法団に入ったら、ずっとアロイス先生のお側で仕事出来ますか?」


 ずっと気になっていたことを思わず口にすると、先生は眉を下げて困ったように私を見た。


「ニーナ········それはダメです」

「やっぱり私の学力と魔力じゃ無理ですかね」

「そうではありません。貴女は努力家だ。学力なんて後からどうにでもなる。しかし、貴女の魔力は······」

「私の魔力、変なのでしょうか」


 先生は悲しそうに笑った。


「変なんかじゃない。いいですか、ニーナ。貴女の魔力はこの世界でも特別なものなんです。魔法団に貴女が入ったら、恐らく喰い物にされて貴女は死んでしまう」

「なんか、怖いですね」

「ニーナは私に魔力をくれたでしょう?あの時私が何を感じていたかわかりますか?」

「········気持ち悪い、とか」

「いいえ。私が知った貴方の魔力の味は、快楽と陶酔。甘くて蕩けるような、私の心臓を根こそぎ溶かすようなそんな感覚です」


 私の魔力、そんなにヤバめの麻薬みたいな味だったのか。


「ニーナ、魔力の注入や吸収が出来るのは魔法使いだけ。魔法士には出来ないんです。だから、今まで誰も貴女の魔力の味に気づかなかった」

「魔力の味······」

「お願いです。ニーナ。大人になっても貴女は魔法使いとの仕事や接触はなるべく控えてほしい。そうでないと貴女は」

「········先生?」


 先生は辛そうな顔をして私を抱き締めた。


「きっと私の元から永遠に居なくなってしまう」


 どうしてこんなに先生は辛そうなのか。私の魔力はそんなに特殊なものなのか。色々と頭の中が混乱し始めてきた。けれど、私の願いは一つ。


「どうしたら、私は先生の役にたちますか?」

「ニーナは、私の役にたちたいのですか?」

「はい」

「では、私の傍にいて下さい」

「········それだけで良いのですか?」

「それが私の望みです。本当は貴女を私だけのものにしたい。誰にも触れさせず、この世の終わりまで二人で抱き合っていたいのですが」

「はい?」


 なんか途中、凄い話に切り替わったような。


「貴女はまだ学生で、私は貴女の先生です。時が来るまではまだ貴女の未来も可能性も奪えません。与えなくてはいけない」

「アロイス先生········」

「いつか必ず貴女を私だけのものにします。が、それまでは、他の虫どもから貴女を守らなくてはならないので、なるべく私の傍にいてください」


 真っ青な空の下、真っ青なたくさんの花達に囲まれて、先生の黒髪が風で靡き、紫の瞳が揺れた。


「私の役に立ってくれますか?ニーナ」

「はい、アロイス先生」


 先生は風でざわめくたくさんの花達の中で、私の額にキスを落とした。



「いい子ですね、私のニーナ」



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