22.恋する教師 2
朝起きると、先生が隣ですやすや寝息を立てていた。朝日の中で、先生の長い睫毛がはっきりと影を作っていた。何だかいつもより幼く見える。
クラウスヴェイク先生は頭に可愛い寝癖をつけていた。いつもはバッチリ決めた鬼教師のクセに。
クスクス笑いながら、先生の寝癖をツンツン弄っていたら、「何笑ってるんですか」と先生のキラキラ輝くアメジストの瞳が開かれた。
少しだけ掠れた声で、「おはよう、ニーナ」とまだ眠たげに笑い、目を擦る先生。
ふふ、やっぱり子どもみたいで可愛い。
「おはようございます、クラウスヴェイク先生。寝癖ついてます。子どもみたいで可愛いです」
せっかくなので笑いながら全部本音を伝えてやった。
「こら」
先生は私に覆い被さるようにぎゅーっと抱き締めてきたので、「ごめんなさい」と笑いながら答えた。
「体調はどうですか?」
先生はまだ半眼で、枕に顔を埋めたままなのに私の心配をしていた。
「すっかり元気です。魔力も完全復活です」
「良かった········」
クラウスヴェイク先生は私の頭を撫でた。
「先生は体調いかがですか?」
「いや、私は別に倒れてませんから」
「でも私にいっぱい魔力流してくれたんでしょう?」
先生は少し、顔を赤らめる。
「私の魔力をあげましょうか。そしたら元気になります?」
「え········っ」
さっきよりも真っ赤になって動きが止まった。意外と朝から表情が豊かなんだな、先生は。
「あ、私の魔力気持ち悪いんでしたっけ。じゃあ逆に迷惑かな」
前に魔力をあげた時を思い出す。
「気持ち悪くなんかないです!!貴女の魔力は私にとっては········!!」
急に上半身を起き上がらせた先生はまだ顔が赤い。
「じゃあ、回復記念にどうぞ。貰ってください」
「······良いのですか?······嫌じゃ、ないですか?」
「何で嫌なんですか?クラウスヴェイク先生にあげたいのに」
先生は何故か耳まで真っ赤だ。変な先生。
「········嫌じゃないなら、貰いますからね?あとで嫌とか言っても遅いですからね?」
「なんでキレ気味なんですか。あげるって言ってるじゃないですか」
先生はしつこく確認したあと私と片手を重ねた。きゅっと指を絡めたら、先生の視線が真上から私に落ちる。
「ニーナ」
「はい、クラウスヴェイク先生」
「アロイス、と呼んでください」
えっ。何故このタイミングで名前呼びを?!
「早く」
「え········でも」
「ニーナ」
「あ·······アロ····っ」
「ニーナ」
「······っ!!」
途端に恥ずかしくなった。言葉を失って、赤面していると先生はゆっくりと、唇を軽く開き私の頬にキスを落とした。
「せんせ······っ」
「早く、名前を」
一度離れた唇から、甘い吐息が移動して耳許にかかる。先生の舌がゆっくりと這い出し、耳朶を食むように舐められた。
「ふぁ········っ」
「ニーナ、アロイスと」
ゆっくりと、ゆっくりと耳を舐められて、背中がゾクゾクとする。先生の声が麻薬のように吐息と一緒に耳にかかると心と身体が痺れた。
「あ······アロイス····っ」
その瞬間、私の中からゆっくりと魔力が抜かれた。
「······ニーナ······」
ゆっくりと私から先生へ流れていった。
ドキドキしたまま、瞼を閉じた。




