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19.先生の魔力

 


 ゆっくりと、温かな流れを感じた。


 真っ暗なはずなのに、そこには確かな優しさを感じる。キラキラと輝くアメジストの光の反射が私を照らす。


 綺麗な紫、これはクラウスヴェイク先生の色だ。なんて優しい色だろう。


 先生のキラキラ光る流れが私の中に巡る。

 あたたかい。あたたかい。


 うっすらと視界が開けた。


「ニーナ?」


「········先生········?」


 はっきりと見えるクラウスヴェイク先生の顔は泣きそうだった。


「ニーナ、私がわかりますか?」

「クラウスヴェイク先生」


 何だかわからないけれど、先生に会えた嬉しさで顔が綻んだ。


「先生、あったかい」



 先生は、一呼吸おいてから話し始めた。


「ニーナ、すみません。貴女倒れたんです。魔力切れで」

「魔力······」

「私が見ていたにも関わらず、本当に申し訳ない」

「緊急事態だったものですから、私の魔力を貴女に流しました。気分はいかがですか?」

「何だかとってもあったかいです」


 先生の眉尻は下がったまま、気遣うように私を見る。


「すみませんでした。自分の魔力量と貴女の魔力量が大幅に違うことを失念していました。貴女の小さな身体には負担が大きかったろうに」


「ここは········」

「異界から戻しました。私の家の寝室です」


 その言葉で、ガッと目が見開かれた。


 身体を起こすと、先生のベッドの上で、先生と身体を密着させ、先生の腕に抱かれた自分がいた。


 胸元は、先生に買って貰ったシャツがはだけ、履いていたはずのハイソックスは脱がされており、スカートから覗いた素足を絡めるように、先生の足に挟まれていた。


 うわああああああ!!!!


 絶叫したはずが声が出ない。口が金魚のようにパクパクと開き、顔が真っ赤になり硬直した。


「別に肉体的には何もしてません。一応伝えておきます」

「あ······ご丁寧にどうも······」


 そ······そうだ。大人のクラウスヴェイク先生が私なんかに興味を持つ訳がなかった。少し、自意識過剰だった。ドンマイ自分。


「本当にすみませんでした。指導者としても、男としても失格です。煮るなり焼くなり殴るなり好きにして頂いて構いません」


 先生が何をそんなに落ち込んでいるのかわからなかった。魔力不足は、本人の自己管理の無さが招くもの。どんな魔法士でも知っている。


「何で先生が謝るのですか」

「何でって・・・」


 先生は戸惑いながら私を見つめた。このままだと埒があかないと踏んだ私は、「クラウスヴェイク先生、おなかが空きました」と伝えた。


 先生は、驚いたように私を見てすぐに笑った。


「そういえば、仕込みしたんですよね」


 私も笑った。


「すぐに支度しますから、貴女はこのままここで休んでいてください」


 クラウスヴェイク先生がベッドを降りて部屋から出ていこうとして、意図せず声が出た。


「······先生」

「なんですか?」

「········何でもありません」


 先生はリビングダイニングへ向かった。


 離れるのが寂しい、とは言えなかった。


 先生のいなくなった先生のベッドの上で頭をシーツに埋める。まだ、温かいシーツの中で先生の匂いがして、私は少し、顔を赤らめた。




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