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16.おうち訪問

 


 ステファニーさんがくれたレシピはクラウスヴェイク先生が定期的に受け取り、毎週末先生のおうちで2人で作ることになったが、「私の家に来る時は、必ず全教科の宿題を持ってきなさい」と言われたため、私はバッグにパンパンに本やノートを詰めた。


「先生の家に行くのには魔物を倒さないと入れない」とぼやくと、住宅街の入り口に来た時にポケットに黄金の鍵がはいっていたら何時でも勝手に入っていいと言われたが······。


 先生、そのダンジョン系魔法って属性全くわからないんですけど。


 ともあれ、私は初めてクラウスヴェイク先生と料理を作るべく先生のおうちに向かった。



 ・・・・・・・・・・




「おはようございます」


 ノックをすると、先生がドアを開けてくれた。


 先生はいつもよりラフな格好をしていた。真っ黒なシャツは第一ボタンを外しているし、ネクタイもベストもつけていない。軽く腕まくりだけしていた。


 窓から入る陽光で、真っ黒な服を着ているのに何だかキラキラして見える。クラウスヴェイク先生は笑っていた。


「ニーナは········制服で来たのですか?」

「私服ほとんど無いので」


 私は奨学金で勉強している身である。余計なお金は使えない。


 先生は口元を手で覆い、渋い顔をした。


「とりあえず料理の仕込みをしますから、着替えてください」

「何に?」

「私の服を貸しますから」

「えぇっ?!制服で充分ですよ」

「エプロンはステファニーさんが縫ってくれましたからそれを着けてください」

「じゃあ、ますます制服でいいのでは」

「黙りなさい」

「すみません」


 先生は自分の真っ黒なシャツを貸してくれた。


 え?シャツだけ?


「クラウスヴェイク先生、下も貸してください」

「貴女にはシャツで充分です。充分丈長いでしょう?」


 確かに足の長い先生のズボンを借りてもお化けのように引きずるだけだ。


 先生の寝室を借りて着替えをさせてもらうと、チラリと見えた大きくて整えられたベッドが視界に入り、バカみたいに恥ずかしくなった。


 ステファニーさんがくれたエプロンは白くてフリルがついていて可愛らしい。あとでお礼を言わなくては。


「クラウスヴェイク先生、準備出来ました」


 ドアを開けておずおずと出ると先生は私をガン見してくる。


「········あぁ、いいですね。いい。私の服に包まれて、私と一緒に料理をするニーナ。あぁ······これはグッときますね」


 何だかブツブツ言ってるし、やたら眼光鋭いし、ちょっと怖い。


「じゃあ、夕飯の下ごしらえをしてしまいましょう。出来たら、貴女の服を買いにいきます。お昼はそのまま外で食べてきましょう」

「服は別にいらないです。着ていく場所もないですしお金勿体ないので」

「何を言っているのですか。これからは毎週私の元に来るのですよ?少しは私を楽しませなさい」

「先生こそ何を言っているのですか?」

「お金の心配ならしなくて結構。生徒に出させる訳ないでしょう」

「先生、話聞いてますか」

「上から下までみっちり買い込んであげますからちゃんと毎週可愛く支度なさい」


 クラウスヴェイク先生は私の話を聞いてくれなかった。


 二人でお野菜を切って、お肉を調味料に漬け込む。先生は手際がいいが、私の切ったお野菜はイビツな形をしていた。


 仕込みが終わった後、二人で洋服を買いにデパートに行った。


 先生は店専属のコーディネーターを呼び出し一から十まで指示した後、何人もの女性スタッフが入れ替わり立ち代わりで服やら服飾品を持ってきては、試着室に連れ込まれた。


「教師ってこんなに儲かる仕事なんですね」

「そんな訳ないでしょう。私はいくつも特許を持ってる研究者であり、王立魔法団の団員ですよ?金など持っていて当然でしょう。教職の賃金などゴミ以下です」


 クラウスヴェイク先生のゴミ発言は久しぶりだ。そこはさておき、やはり魔法団は高給とりなんだなと改めて思う。


 魔法士ではなく魔法使いの集団だもんな、よく考えたら当たり前だ。私は逆立ちしたってなれない。


 着せ替え人形の様に着ては脱ぎ、脱いでは着て、ハタと気付いた。さっきから、女性スタッフが試着後にクラウスヴェイク先生に逐一報告に行っている。


 ちょっと待って。さっきメジャーで測ったサイズとか、さっき着せられた下着一式とか、いちいち先生が把握しているの?なにそれ、私に人権って無いの?


 恥ずかしくなって、その場で項垂れていると

「粗方揃えましたから、全部貴女の寮に送ります。あとは今日帰りに着ていく分だけですね」

 と言われて、最後のお着替えタイムを迎えた。



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