15.先生とステファニーさん
校外学習から戻ってきた次の授業のあと、私はクラウスヴェイク先生とステファニーさんの店に来ていた。借りたお重は丁寧に洗って先生にお返しした。
「それでね、他の子に取られないように全部に色んな毒が入っているって嘘ついて死守したんです」
「そうですか。守り抜いてくれて嬉しいですよ」
「全部私が食べました。すごく美味しくて美味しくて泣くかと思いました。でもお腹いっぱいで暫く動けなくて」
「ああ、すみません。ちょっとやり過ぎましたね」
「でも全部美味しかったんです。有り難うございます」
クラウスヴェイク先生は、はにかんだように笑った
「ニーナちゃん、アップルパイ焼いたんだけど食べない?」
ステファニーさんがニコニコと輝くような大きなアップルパイを見せた。
「美味しそうです!頂きます!」
何度もステファニーさんの店に通ううちに、私はすっかりステファニーさんに懐いてしまった。ステファニーさんは、アップルパイを軽く火魔法で温め、その上にたぽんとバニラアイスを載せてくれた。
至高のアップルパイを口に入れると、熱いサクリしたアップルパイにとろりとしたバニラアイスが絶妙に絡んで私は恍惚として食べきった。
「本当に美味しかったです。ステファニーさんのお料理はどれも美味しすぎます」
「うふふ、有り難う。ニーナちゃん」
「私も勉強したらステファニーさんみたく料理上手になれますか」
「あら、じゃあアロイスと一緒に勉強なさいな」
突然ステファニーさんがクラウスヴェイク先生を名前で呼んだ。
「ステファニーさん!」
クラウスヴェイク先生が急に大声を出し、私はハッと気がついた。
あ、そうか。わかったぞ。つまりそういうことだな。
「クラウスヴェイク先生、隠さなくてもいいですよ。私、なんとなくわかっちゃったので」
「わかったって、何が?」
私はドヤ顔で言った。
「つまり、クラウスヴェイク先生とステファニーさんは恋人なんですよね?」
「はぁ?!」
「ふふふん。いや、愛に年の差は関係ないです。そういうものらしいので」
「何、言ってるんですか」
「大丈夫です。私、応援しますよ!!」
ガッツポーズを取ると、カウンターにいたステファニーさんがクスクスと笑いだした。
「ニーナちゃんたら、本当に面白いのね。うふふ、アロイスは私の妹の息子なのよ。つまり、私の甥っ子」
「えっ?!そうなんですか?!」
「ごめんなさいねぇ、恋人じゃなくて」
ニコニコと答えるステファニーさんを尻目にクラウスヴェイク先生は憮然としていた。
「ニーナは、私に恋人がいてもいいのですか?」
若干キレ気味に先生は聞いてきた。
「先生は大人ですから、そういうこともあるとは考えてます」
「週に3日も貴女と夜一緒にいるのに?」
「大人の夜は長いと噂に聞きました。ごはんの後の先生の行動までは把握していませんので」
あさっての方向を向いた先生から舌打ちする音が聞こえた。
「あらあら、アロイスもまだまだね。うふふ」
ステファニーさんは何だか楽しそうだ。
「わかりました。ニーナ」
何だか嫌な予感がする。
「一緒に過ごす時間を増やしましょう」
「えっ?!」
ちょっと待って。
只でさえ、闇魔法は他より授業の時間が長いのだ。おまけにこうやってごはんまで一緒に食べているのだから先生と過ごす時間は充分確保しているはずだ。
教師と生徒の関係の中、私なりに先生との関係を良くすべく時間はだいぶ割いてきたはずだ。
「なんですか。嫌なんですか」
「嫌とかではなく······」
ここははっきりしっかり自分の意見を言わなくては。押し通そさなくては!
「それでは他の属性の宿題をしている時間がありません」
よし。勉強を理由にすれば、先生も黙るはずだ。
「あらあら、じゃあ他の宿題もアロイスがみてあげなさいな」
「え········ステファニーさん?」
「アロイスは在学中は首席だったのよ。ニーナちゃん。5属性の授業の宿題くらいなんてことないわよ、ね?アロイス」
「そうですね。それがいい。これからは全教科私が教えて差し上げます」
なんか勝手に話が纏まりかけてる。これはマズイ。
「で······でも、先生は魔法団のお仕事もあるし、前に私に教えるのは研究の時間が減って勿体ないって······」
何とか抵抗をはかろうと必死に画策するが先生は全く意に介さない。
「研究なんて他の誰かがやればいいんです。そんな時間があるなら貴女と過ごした方が有意義でしょう?」
正論のように述べるが全く正論じゃないし、出会った頃の先生とは真逆の事を言っている。
「お料理のお勉強もアロイスとするのよね?そうよね?そう言ったわよね?」
急にステファニーさんの圧が強くなり、私はたじろいだ。
「ス······ステファニーさん········?」
ニコニコと笑うステファニーさんは私の手をきゅっと握り、温かな目で見つめた。
「レシピたくさん渡すから、ちゃんと二人で作ってね?」
「決まりですね」
はっきりしっかり言ったはずの自分の意見は軽く流され、クラウスヴェイク先生とステファニーさんに私は押し通された。




