1.プロローグ
魔法文化が根付くこの国で、所謂『魔法使い』と呼ばれる人間の数は決して多くない。
魔法に携わる殆どの人間は『魔法士』と呼ばれ、生活全般に関わる仕事をする上で重宝される資格保持者として生きている。
勿論魔法を使えない人間も一定数いるため、必須の資格ではないが、有ると無いとでは給料にも生活の利便性にも大きな違いが出てくるのだ。
田舎の公立の中等学校に通っていた私が、歴代の魔法使いの中でも珍しい『魔法属性変化者』であることがわかったのは卒業の1年前だった。
そこから国による奨学金が降りることが決まり、幸運にも王都にある魔法使いの高等育成校へ勉強にいくことが許可された。
上京して入学した1年目の春、寮から学校に通う私は初日で絶望した。周囲の学生は皆、既に『魔法士』の資格を保持し、さらなる高みを目指すべくこの学校に来ていた。
第一歩目から出遅れていた。
かといって、ど田舎出身、奨学金貸与中の私が自費で家庭教師を雇うなんて到底無理な話で、教師陣の恩情と図書室の利用を駆使して、ギリギリ他の生徒についていく学校生活が、スタートしたのだった。
成績が悪いにも関わらず奨学生であった私は当初から周囲から様々なバッシングを受けていた。
「田舎もの」「身の程知らず」などの様々なあだ名をつけられていたが、一番凄かったのは、私の水色の髪色にかけた「澄み渡る聖なるバカ」という称号である。名付けた方には、「引き出しに毎回手を挟め」と、ささやかな祈りを捧げておいた。
1年間ずっと基礎の基礎から勉強ばかりしていた私は、遅ればせながら『魔法士』の資格を無事取得し、ぐんぐん周囲に追い付き始めていた。
逆に入学時から資格を有していた生徒でも学生生活を謳歌しすぎた者達は、ゆっくりと私とテスト順位も逆転し始めていた。
そんな勉強ばかりしていた2年生の春、初めての闇魔法の授業が始まるということで、教師として来ていたのがアロイス・クラウスヴェイク先生だった。
元々闇魔法の属性者は少ないと聞いていたが、その中で群を抜いて魔法使用に長けていた彼で、その漆黒の髪色とアメジストのような紫の目、整った顔立ちから『闇魔法の貴公子』と噂された有名人だった。
始業式の時、教師の紹介で女子から黄色い歓声を浴びた彼であったが、眼鏡の奥の眼光で蹴散らし、差し入れと称して近付いた生徒には刃物のような言葉で刺し殺す、誰も近づけない孤高の教師であった。