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第八話 子供かっ!!

「おい! 次は俺の番だ! ドラゴンキラーをよこせ!」


「馬鹿野郎! お前がサポートに回れ! 一気にかたをつける!」


 どっちのリーダーも自己主張をするばかりで、まるで統率が取れていない。


(子供かっ!!)


 予想通りとはいえ、さすがに呆れてしまう。


 とんでもない速さで動きまくる神虫クランのメンバーたちだが、ツインヘッド・ドラゴンには、一見したところ傷らしきものは見当たらない……どうやら、敵も有効打になるドラゴンキラーの攻撃は確実に回避しているようだ。


(やはり戦況は明らかに劣勢か……。)


 俺はしばらくの間、彼らの行動を間近で観察する。




《キラー・ビー》

 リーダーのヘキサスはドラゴンキラーで果敢に攻撃を繰り出しているが、ツインヘッド・ドラゴンの反応が早く、まるで間合いに入れていない。


 二人の副リーダーのうち、氷結魔法の達人フォルドア・フォルケンは、直接魔法を当てることを諦めているのか、ドラゴンの足元に氷の塊を作り行動を阻害しようとしているようだが、氷塊が溜まってくるとすぐに炎で跡形もなく溶かされてしまう。


 城下最高の弓使いと名高いエルフ族のパームは、もはや弓を背中にかけている。今はサポートに回っているのだろう、精霊魔法の詠唱をしている。


 そして。

 もう一人の副リーダーである最速の剣士ラブレス・ラブリは、ツインヘッドの一頭を攪乱するべく、折れ曲がった指のような岩壁を足場に飛び回っている。


《クリティカル・ビートル》

 リーダーで三兄弟の長男のハンドラ・サンドラは、次男のカンドラと共に、物凄い速さで回転しながら、交互にツインヘッド・ドラゴンの胴体に体当たりを繰り返している。

 彼らのスキル《ヘビー・バースト》だ。

 如何なる攻撃をも無力化するドラゴンの特性を持ってしても、彼らがぶつかる度にその巨躯が若干よろめき後ろに下がる。が、やはり目に見えるダメージはなさそうだ。


 三男のアンドラは、どちらかの兄の控えなのか、少し離れた位置でダメ―ジを受けないように動き回っている。




 俺はアンドラよりもさらに後方――ドラゴンの炎が届かないであろう位置――でリュックを下ろし、アイテムを取り出す。


《指揮官の角笛》

 アレクセル家に伝わるアイテムの一つだ。これを使うと、兵士を強制的に一箇所に招集することができる。ただし、兵士が吹いた者を指揮官として認識しているのが前提だ。


 まあ、それでも音で注意を引くことはできるだろう。


「ーーーーーーーっ!!!」


 近くで聞くとそれだけで全身が麻痺しそうな咆哮。


(こんな化け物とずっと戦っている強者たちにこれから命令するのか……えーい! この期に及んで何を臆するんだ、アレス・アレクセル!)


 俺は意を決すると、思いっきり角笛を吹いた。


 バオーーーーーーーっっっ!!


 山頂を囲む折れた指のような岩に反響するのか、思ったよりも音がでかい。全員がこっちを向いた。


 だが。

 こっちに注目したのは、彼らだけではない。


 ツインヘッド・ドラゴンの片方の頭は、その長い首を後ろにのけ反らせ、勢いよく前に突き出しざまに――口から渦巻く火炎を吐いた。


(あっ、これ届く……終わった……。)


「ファイアエレメンタル・シールド!!」


 俺の正面に巨大な深紅の盾が現れた。

 火炎は盾で二つに分断され地面をえぐりながら逸れていった。


「てめえ! そこで何してやがんだ!!」


 がちゃがちゃと特注のフルプレート・メイルの音を立てながら、ハンドラ兄弟の三男、アンドラがこっちに向かって走って来る。


「死にてえのか!」


「や、やあ、私はアレス・アレクセル! と、とんでもないのと戦ってるねえ!」


 我ながら格好悪い。

 たった今、命拾いしたせいで、声も足も震えている。


「君にちょっとお願い――」


「あなた! 何者です?」

 

 俺が言い終わらないうちに、今度は正面にエルフがふわっと舞い降りた。


 ギルドきっての弓使いにして精霊術師――パームだ。髪をアップにしているので、特徴的な長い耳がぴんっと突き出しているのが目立つ。エルフが怒っているときの耳だ。


「これはこれは、美しいエルフのお嬢さん。私はアレス・アレクセル。《セブンデイズ・シケイダ》の――」


 またも、言い終わらないうちに、ぐいっと肩を引っ張られて、俺は後ろに倒れそうになる。


「この野郎! さっさと失せろ! ここはてめえなんかの来るところじゃねえぞ!」


 振り向くと、鋸状の角の生えた黒い兜、甲羅のような背部が盛り上がった鎧――《クリティカル・ビートル》の幹部アンドラ・ハンドラ。間近で見ると迫力が違う。


「アンドラ殿、お待ちになって……アレクセルというと、あのドラゴンキラーの?」


「ごほんっ、ええ、その通り……私がセブンデイズ・シケイダの――」


「その御大尽がなんのようだってんだ?」


「名乗りぐらいさせろっ!」


 アンドラの武骨な横槍につい腹をたててしまった。こんな奴らから、一度でも感謝の厚い抱擁を期待した自分が恥ずかしくなる。


(だが、今はこっちも上品ぶっているときじゃない!)


「私はアレス・アレクセル! そうだ、この度ドラゴンキラーの代金を提供した者だ」


「わかりました。アレス・アレクセル。で、ここでいったい何をなさっているのですか?」


 パームの口調は、目の前の状況にまったくそぐわないほど、落ち着いている。

 

「私に策がある。みんなを一度ここに集めてくれ」


「おいおい、混乱の魔法でもかけられてんのか、こいつ? こんなところに全員で仲良く肩並べてあの化け物が黙ってるとでも思うのか?」


 アンドラはそうまくし立てながらも、抜け目なくちらちらと戦場の方に目をやっている。


「おい、パーム。もうこんなのほっといて早く詠唱に入れよ。いま炎でも吐かれたらやっかいだぜ」


 俺はリュックの中から、アイテムを取り出して、二人に見せた。


《インビジブル・フォート》

 一定時間、内外からのあらゆる攻撃を無効かする広範囲バリアを展開する筒状の魔道具。しかも、外からは完全に不可視不認識になる。ちなみに、軍用品で一介の冒険者風情では絶対に手に入らない代物だ。


「インビジブル・フォート……確かにこれがあれば時間を確保できますわね」


「ちっ、まあ、兄者たちもすっかりバトルモードになっちまってるからな……一回頭冷やしたほうがいいかもしれねえな……」


 どうやらこの魔道具で、少しでも時間が取れることの有益性は理解してくれたらしい。

 俺の「策」については完全に無視だが……。


「わかりました。では、わたくしが皆を集めてきます。すぐに魔道具の発動準備を」

ファイアエレメンタル・シールド: 火の精霊十体が作りだす円形のバリア。あらゆる火属性攻撃に対応するが、他の属性には効果がない。

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