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第三話 ムカつく鳥め!

 帰路。

 周囲は湿った空気に包まれ、どこからか、ラウドンダイズの群れが奏でる異様な合唱が聞こえてくる。


 カジイの並木道を抜けた辺りで、木の陰からランタンの明かりがふいに飛び出してきた。

 あれからしこたま飲んだせいもあり、自分の目が信じられず、もう一度、目を凝らす。


 間違いない。そこに立っていたのは、まぎれもなくラブレス・ラブリだった。


(俺を待っていたのか? いや、それは考えにくい。)


 ここは無視を決め込むのが最良だと判断し、俺は気づかないフリをして歩き続ける。


「――ねえ」


 その木の前を通り過ぎるとき、小さいが確かな声が聞こえた。

 これは疑いようもない……ラブレス・ラブリは俺を待っていたのだ。


「……これは、これは。女王蜂殿。私めに何か御用ですかな?」


 俺は恭しくおじぎをする。

 酒が入っているとはいえ、礼節は崩さない――いや、崩せないだけかもしれない。


「クエスト、参加しないの?」


 抑揚のない冷たい声。そこには哀れみも、優しさも感じられない。そもそも、どうして彼女が俺のことを気にする必要があるというのだ。


(大方、嫌がらせか何かだな。この女も、冒険者にありがちな貴族嫌いの一人に違いない。)


「ええ。未だ神の声が聞こえずスキルを得られていない第七等級で燻っている私のような男なんて、足手まといになるのは目に見えていますからね」


 飲み過ぎているせいか、やけに饒舌になってしまう。


「うちのリーダーの判断ももっともです」


 俺はさっきから彼女の方を見れてないが、ランタンの灯の角度から考えると、彼女はこっちを見ているようだ。


「そう」


(チっ、なんだこの女は。そこは多少なりともフォローするべきだろ。)

 

 せっかく、酒で鎮めた怒りがまたぞろ頭をもたげてくる。


「まあ、あなた方のように年がら年じゅう魔獣狩りをする野蛮な趣味もありませんのでね! この機会にレーベストラで避暑でも楽しもうかと思っている次第です。ちょうどあの辺りに別荘を持つのも悪くないと考えていたものですから!」


 ラウドンダイズの鳴き声がうるさいから、それに負けじと声を張ったら、思っていたよりも大声になってしまった。


「……野蛮? 私は野蛮ではない」


(くっ、皮肉なんて言うつもりはなかったのに……。)


「あ、あなたが野蛮だとは言ってません。まあ、貴族である私とあなた方では常識に多少ずれがあると申したまでです」


(だめだ! やめろ! やめてくれ……その先を言ったら何もかも台無しだ。)


「ドラゴンキラーの資金を用意した――この私に! 礼の一つもなく、まるで全部が自分たちの手柄のように嬉々としている連中なんて、野蛮という言葉がお似合いでしょうなっ!」


「…………」


 自分の肩が震えているのがわかる。


(頼むもう立ち去ってくれ……俺は、俺は……。)


「そう」


 灯りがこっちを向くのがわかった。


「ドラゴンキラーありがとう」


 ランタンの灯りが動く。彼女が頭を下げたのだ。


「じゃあ」


 カチャカチャと脛当てとランタンの揺れる音が、遠ざかっていく。


 俺はムカついている。

 

(そうだ。俺はムカついているんだ……。)


 おもむろに小石を一つ拾い上げ、木の上に向かって思いっきり投げると、バサバサっと翼が枝葉を叩く音が闇夜に響いた。


(ムカつく鳥め!)





  家に着くと、例によって母はまだ起きていた。俺が帰ってくるまでは絶対に寝ないのだ。

 

「こんな遅くまで、なんの連絡もなしに何をしていたのですか?」


「ツインヘッド・ドラゴン討伐の件は話はしたでしょう。そのことについて会合があったんですよ」


 俺が外していく防具を母は丁寧に拾い上げ、壁に掛けていく。


「そうですか」


 最後にブレスプレートを抱えて、母は仰々しく背筋を伸ばした。


「でも、それならそうと出かける前に言いなさい。あなたのお父様は一度も無断で遅くなることはありませんでしたよ」


 火の魔石のように、自分の体が一瞬で熱くなるのを感じた。


「――ずっと、無断で家に帰ってこないような男を引き合いに出さないでくださいっ!」


 俺の声に驚いたのか、母は目を丸くし少し後退った。


「あの人はもう帰ってこないんですよ! 行きずりの女と逃げたんだ! そんなことを知らないのは――認めないのは、母上だけだっ!」


 ブレスプレートが床に落ち、鈍い音が玄関にこだまする。


「……な、何を馬鹿なことを……そんなはずありません。お父様は今でも戦場で――」


「あいつが所属していた部隊はとっくに帰還しているんだ! 皆、笑っていますよ。娼婦と逃げ出した臆病者だとね!」


 母はキっと口を結ぶと、俺の頬を平手で打った。


「お父様のことを『あいつ』だなんて! 訂正なさい!」


 俺は母を睨みつける。

 母の顔は怒りに歪んでいるが、そこに不幸な事実を知らされたときのような哀しみは宿っていない。


(何を言っても無駄だ!)


 母親を押しのけて、俺は二階の自室に走った。

 部屋に入るなり、ベッドにうつ伏せに倒れこみ、顔だけ横にして窓の外を見る。


(ラブレスはなぜあそこにいたんだ……。)


『臆病者は冒険者に不向き。いずれ死ぬか辞めるか』

ここまで読んでくれる人はいてるのでしょうか?


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