プロローグ
中編小説です。
よかったらご一読ください!
(俺はムカついてる。)
「だからいつまでたっても『スキルなし』なんだよ! この金づる野郎がっ!」
今だってそう――こいつの顔面を殴って、罵声を浴びせてやりたいと思っている。
「なんだ~てめえその顔は、なんか言い返してみろや、おい」
だが、ぐっと言葉を飲み込む。
「へっ、腰抜けのボンボンが。てめえみてえなのが、いるから冒険者が舐められんだよ!」
「っつ……」
脛をつま先で蹴られ、思わず声が漏れた。
(なんて様だ。)
脛を手で抑えようと前屈みになるついでに、周囲に視線を巡らす。
(なんでいやがるんだ――ラブレス・ラブリ!)
第一、第二等級だけの精鋭クラン《キラー・ビー》の副リーダー、ラブレス・ラブリが退屈そうにテーブルに肘をついてこっちを見ていた。
腰まである銀色の髪。
抜けるような白い肌は、どこか浮世離れして見える。
対照的に、その双眸には現実を見据えるような冷たさが。
その視線に晒されると、自分がちっぽけで取るに足らない存在だと思わされる。
(くそっ、あの女にこんなところを見られるなんて。)
目の前の筋骨隆々の胸筋おばけに低姿勢で近寄り、俺は耳元で囁く。
「まあ、ここは一つこれで……」
男の手にバルバス銅貨の入った袋を落とす。もちろん、自分の体で死角を作ることは忘れない。
「……ちっ、まあいい。てめえ今度から気を付けろよ」
(酔った勢いで絡んできただけのくせに、一体、何を気を付けろと!)
男が去っていくのを見届けてから、俺は何事もなかったかのように手を打つ。
「いやー、お騒がせしました。さあ、みなさん、飲みましょう飲みましょう! お詫びに今日は私のおごりですよ!」
イエーイ!! と酒場に歓声が上がる。
俺はこっそりラブレス・ラブリの方を見たが、いつの間にかいなくなっていた。
『臆病者は冒険者に不向き』
俺はムカついてる――
(あの偉そうな女に!)