碧と夏鈴2
こないだの神楽さんを案内してから数か月が過ぎたけど、神楽さんの言ってたデートのような事は、一度も無かった。神楽さんも何かと忙しそうだったので俺も誘う事は、無かったけれど…
変わらず休み時間に屋上で三人で居る事が当たり前になってきていた。
「陽菜ちゃん、今度休みの日に買い物でも行かない?」
「夏鈴ちゃん行きましょう。私、新しい服とか見ておきたいんですよね。後は、夏鈴ちゃんに似合う服とか選びたいな」
「じゃあ、私も陽菜ちゃんに合う服を選びたいかな」
この二人も最初の反応とは、考えられないくらいに仲良くなっていた。最初は、水と油の関係かと思っていたけど、俺の考えすぎだったみたいだった。
「碧先輩、何でニヤニヤしてるんですか?エッチ」
「陽菜、エッチって言う一言は、余計だろ…二人とも本当に仲良くなったなって思ってただけだよ」
「えぇ本当にそう思うわ。人を見た目で判断しては、いけないという事だけは、本当に良く分かったわ」
「あれ…私、夏鈴ちゃんにディスられてる...と言っても私は、自分の好きな物は、好きと前面に押し出していくタイプなのは、変えたくないので周りの目なんで、正直どうでも良いですけどね。本当に内面を知ってくれる人だけ一緒に居てくれたら良いので…」
陽菜の表情は、一瞬暗くなったけど、一瞬でいつも通りの陽菜に戻っていた。
「私も陽菜ちゃんと一緒よ、私の事を本当に理解してくれる人だけが傍に居てくれたらってずっと思ってる」
神楽さんと俺は、目が合っていた。あなたは、私の事を本当に理解してくれる?と言いたげな表情だった。
「俺もそうだよ。その場限りの幅広い交友関係何て必要ない、だから、お互いあまり気を遣わなくて良い関係は、大切にしていければとは、思ってる」
しばらく沈黙が続いて、俺は、少し変な雰囲気を変えるために手を叩いていた。
「この雰囲気は、もう終わりな…気持ち切り替えて行こう」
陽菜も神楽さんもコクリと頷いてから、また二人で楽しそうに話していたので、安心した。こんな時間が続けば良いのにな…
▲◆▼★■
私と碧先輩との出会いは、屋上だった。初めて碧、碧先輩を見たときは、周りの男子より落ち着いてる大人っぽくて格好良い人っていうのが第一印象だったけど。話してみると、案外優しくて、ノリが良かった。
でも、時より見せる碧、先輩の寂しいそうな表情の正体については、分からないままだった。
「ねえ、碧先輩、今日バイト先に遊びに来てくださいよ」
私は、目を輝かせて碧先輩を見ていた。
「久々だし、陽菜のバイトしてる姿でも見に行くか」
「碧先輩が来た時は、真面目に働きます」
私は、敬礼をしていた。
「そんな事を言っても、普段から真面目に働いてるだろ」
「バイト先で褒められないのは、見た目だけですね」
「確かに飲食店だから仕方無いけど、俺は、可愛いと思ってるぞ」
碧先輩は、優しいけど…一緒に昼休みを過ごしたりしてても、全く心が近づいた気がしない……まるで、他の人を入れないようにする為なのか見えない壁がある。それでも、私が隣に行けるかもしれない…小さい可能性には、縋りたいと思っている。
「可愛いって言われて悪い気は、しませんし…素直に喜んでおきます」
「陽菜、それじゃあ、また後でな」
私と碧先輩が過ごす短い二人の休憩時間が終わった。今日は、碧先輩が放課後にバイト先に来るだけでも、私は、嬉しくて仕方が無かった。
私は、学校が終わり、碧先輩と会える嬉しさもあって、いつもは、歩いて行くバイト先に走って向かっていた。自分でも、こんなに分かりやすいくらいに機嫌が良い。歩いて十五分ほど掛かるバイト先にも五分程で着いていた。私は、バイトの制服に着替える前に深呼吸を三回ほどして、気持ちを落ち着かせてから着替えるのだった…
碧先輩は、来るのが遅いので、色々なお客さんに接客をしていると、若い男に、お尻を触られていた。
「姉ちゃん、良いケツしてんじゃん...バイト終わってから俺と遊ぼうよ、なんなら今からでも良いんだけどな」
いつもなら声が出て助けを求めらるの今日に限って声が全く出なかった。そして逃げようにも男の力が強くて逃げ出そうとしても逃げ出せれなかった。私は、心の中で碧先輩に縋るような気持ちで助けを求めていた。
「おい、お前、陽菜に何してるんだ。お前のような汚い男が触れて良いと思えるほど、陽菜は、安い女じゃないんだ...早くその手を離せ」
いつもの碧先輩からは、聞いた事の無いドスの効いた声で正直私も怖いと感じてしまった。
「分かったから手を離させば良いんだろ」
男は、掴んでいた私の腕を素直に離してから、立ち上がり逃げようとしていた所を碧先輩に思いっきり顔面を殴られていた。
「痛てぇ...ちゃんと手を離したじゃねぇか」
「そういう問題じゃない。何逃げようとしてるんだ...まず陽菜に謝れよ。そしてお店にも謝れ。それから二度とこの店に来るなよ来たら分かってるよな?」
碧先輩の言う事を素直に男は、聞いて私に謝った後にちゃんとお店にも謝っていた。正直、そこまでしなくても良いのにと思ったけど。碧先輩がそこまでしないと絶対に反省は、しないからやって当然だと言っていた。
男がお店から立ち去った後に私は、碧先輩に抱き着いていた。
「陽菜、どこも怪我したりしてない?」
「私は、大丈夫ですけど、めっちゃ怖かったです。碧先輩、助けてくれてありがとうございます」
碧先輩は、抱き着いている私の頭を優しく撫でてくれていた。その優しさが今日は、強く私の心を揺らしていた。
「碧先輩のあんな顔初めてみましたよ。普段の感じだと全く違って正直迫力が凄かったです」
「陽菜が絡まれてるのにいつものテンションだとおかしいでしょ...俺も自分があんな感じで怒るとは、思ってもなかったけどね」
その事があってから私と碧先輩の距離は、近くなったような気がした。
▲◆▼★■
お父さんの転勤で家族で引っ越しをする事になって、しばらくして碧が私の所に会いに来てくれたのに私が会いに行けなかったのは、お父さんに邪魔をされていたからだった…
引っ越しした当初は、お父さんもいつも通り優しかったけれど、転勤して慣れない環境と仕事のストレスもあったのか私とお母さんに強く当たって来ることが日に日に増えていっていた。碧が会いに来る日に私は、外に出して貰えなかった。
「お父さん、碧が来てるの会いに行ったら駄目なの?」
「駄目に決まってるだろ…そんな暇があったら勉強でもしてろ」
私は、母に救いの手を求めても横に首振られて、子供の私は、諦める事しか出来なかった…ごめんね碧...本当は、会いたいのに会えないよ
▲◆▼★■
碧が三回目会いに来てくれるという日には、優しいお父さんの面影は、もう無くて、仕事を辞めてお酒ばかり飲むようになっていた。
「碧がまた来てくれてるから会いに行ったら駄目かな?」
「駄目に決まってんだろ」
そう言われて私は、お父さんに蹴り飛ばされていた。
「痛いよ...お父さん」
「俺だっていっぱい痛い思いをして来てるんだよ...それぐらいで痛いって言うな」
「お父さん、夏鈴だけは、傷つけるをやめて!!もう離婚して欲しい私と夏鈴の為に」
お母さんは、お父さんに言い残して私を抱えて実家に逃げるように帰った。お母さんのお爺ちゃんとお婆ちゃんは、とても優しくしてくれた。久々に優しくしてもらえた気がした。
それからしばらく、お爺ちゃんとお婆ちゃんの家でお世話になっていた。その裏でお母さんは、お父さんとの離婚の手続きをしていたけど、中々ハンコを押してくれなかったらしい。それでも最終的には、勘弁したのハンコを押してくれたらしいけど...
お爺ちゃんとお婆ちゃんの家に住みだして高校二年生になる頃に私は、決めていた事があった。碧に会いに行くという事だった。碧が会いに来てくれたのにお父さんに阻まれて結局、三回とも会えず仕舞いになり、手紙も送るのも辞めてしまったから、せめて私自身が会いに行くべきだと考えたからだ。お爺ちゃんとお婆ちゃんとお母さんに説明をすると、行っておいでと応援してくれたので、私は、一人暮らしになるけど、碧が居る街に飛び立っていた。
「懐かしいな、もっと早く来れたら良かったんだけど...私の中で決心がどうも決まらかったから...それでも来て良かったって思えるようにしなきゃね」