夏の空気
昼間の暑さがまだ余韻を残していて、湿気を含みしっとりとした夜の風が頬を撫でる。
日が暮れて幾分涼しくなったとはいえ、まだ体にまとわりつくような重たい空気にウンザリした。
ふと空を見上げてみれば、薄っすらと雲がかかり幻想的な雰囲気の月。
昨日より明るさを増して辺りの雲を照らしている。
何故だか月を見ていて貴方の顔を思い浮かべた。
いつも明るくキラキラと輝く太陽のような人なのに。
どうしてだろう?夜の月は似合わない気がしていたのにな…。
貴方の悲しそうな横顔を見てしまったから?
私に出来る事はないのだろうか…?
一生懸命に考えを巡らせてどんな名案を思いついたとしても、あと一歩の勇気が出なくて私はいつも少し離れた所から見ている。
私なんかが…
きっと迷惑をかける…
どうせ、知らないでしょ?私の事なんて。
次から次へとネガティブな言葉が出てくる。
こんな自分大嫌いだ。
自信がなさすぎて毎朝、鏡で自分の顔を見るのも嫌だ。
分かってる。痛いほど。
誰も私の事なんか見てないって。
…自意識過剰なのかな?
でも、もしかしたら…?
誰かが私を…あの人が私を見てくれるかもしれない。
そんな妄想をするばかりで、だけど一向に努力する気はなくって。
なんで?どうして私ってこうなんだろう?
そんな事を考えながら今夜の月を眺めて深い溜息をついた。
今、貴方はどうしているのだろうか?
あの笑顔でまた誰かを和ませているのかな?
…無理してないかな?
きっと余計なお世話ね。
私なんかが心配した所で何にもならないじゃない。
そう。貴方は私の事なんか知らないもの。
…痛い。
すごく痛い。
そんな事を考えてしまって自分で自分の心に言葉のナイフを刺した事に気づく。
ズキズキと胸が痛んだ。
けれど、この繋がった夜空の向こうに貴方がいて同じ時間を生きている。
…信じられないけどこれが事実だ。
だけど直接会う事も触れ合う事も出来ない。
もし、貴方に出逢わなければ…
きっとこんなに苦しくなる事もなかったかもしれない?
でも、貴方に出逢わなければ…
きっとこんなに幸せな気持ちになる事はなかったかもしれない。
誰かを好きになる事がこんなにも苦しくて、こんなにも幸せだなんて知らなかった。
貴方のおかげね。…ありがとう。
布団に横になり、眠れないけれど目を閉じてみる。
明日もまた暑いのだろうか?
じっとりした夏の夜の空気を感じながら、私は貴方の事を勝手に心配してる。
届かぬ思いは空気のように辺りに漂い、少しずつ薄れて消えていく。
…たぶん、きっと貴方には届かない。
でも、やっぱり貴方が好きで仕方ないの。
どうにかなる気もなれる気もないけれど、せめて好きでいさせて。
そうして静かに眠り、私の夜が終わる。
また明日もきっと今日より貴方の事が好きだ。