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ネルン谷

巨大な鳥のような生き物が黒く渦巻くように飛んでいる山々を

遠望できる雪原で、グランディーヌは雪進船を止めた。

「……あれがワイバーンたちの山」

「うわぁぁ……行きたくない」

「十メートル級の大物を説得しないといけないんだよね?」

「うん。最低でもそのくらい無いと

 私たち四人を連れて移動できない」

「どっ、どうやって……説得を……」

グランディーヌがウネウネと触手をコートの襟もとから出しながら

「……ワイバーンは頭が悪い。

 なので、まずは力でねじ伏せる。

 それから、説得を試みるのが正しいと思う」

「……えっ……?」

グランディーヌはゆっくりと雪進船から降りて

「二、三時間くらい待ってて、三体ほどあの山から連れ帰ってくる。

 それから、ハーツちゃんとタナベさんを交えて

 その三体と話してみて、裏切らなさそうなのを選ぼう」

足元に紫の触手を大量に出すと

ウネウネと動かしながら、

かなりの速度で雪原を山へ向けて駆けて行った。

呆気にとられたハーツをタナベが

「僕たちは、あの山に登ったらあっさりやられそうだから

 ここは任せよう」

「うっ、うん……でも説得って?」

「調べたところによると、ワイバーンは知能が低くて疑い深いんだ。

 巨竜のイエレンさんが賢いし、信用できるのとは真逆だね」

「そ、そうなんですか……」

ハーツは混乱した顔をしている。

「とにかく、ここで待とう」

ハーツは気づいた顔をして

「そっそうか……グランディーヌちゃんやるじゃん……」

と呟くと、首を傾げたタナベに

「わっ、私、タナベさんと二人きりで話す時間が久しぶりですよね?」

タナベは気づいた顔をした後に

頬を真っ赤に染めて頷いた。



二時間後。

オースタニア首都近郊ネルン谷



「ああ、もったいない」

頬に深い傷のある中年の女性が

日に焼けた肌の皺の深い目元を細めた。

彼女は灰色の装束を纏っている。

その近くで坊主頭に傷がある屈強な老兵が

装着している傷だらけのプレートメイルをさすりながら

「わしらを引き立ててくれた、嬢ちゃんの作戦やからな。

 まぁ、従うしかないわな」

二人の目の前には、山と積まれた青白く光る花が

静かに燃え始めている。

「この時期しか咲かんのやけどなぁ。

 私、ここ来て癒されるんが、この時期の楽しみやったのに」

老人はいきなり噴き出して

「"焼殺"のメボラがよう言うわ。

 煉獄の子供たちを焼き殺すんが、楽しみで仕方ない癖になぁ」

メボラと言われた女性は老人を睨みつけて

「"爆殺魔"マルハナーン将軍……昇格したからって

 調子に乗らんでくださいよ。あんたもそうやろ」

「一気に上が消えたから、お前も五階級くらい特進して将軍待遇やろが。

 あぁ……いい奴から先に逝ってまうなぁ……」

マルハナーンと言われた老人は空を見上げる。

辺りは川が流れる岩場でそれを左右に囲むように深い森が伸びている。

メボラはチラッと狡猾な笑みを見せて

そして引っ込めると

「将軍、思ってもないこと言わんでください。

 なーんの取柄もない家柄だけで偉なったような

 無能な貴族将どもが、殆ど死んだだけでしょうが」

「まぁなぁ、スベン様の下についてなかったら

 わしらもとっくに死んどったやろな」

メボラはまた顔をしかめると

「……ふん。無能なら上を殺してでも、軍を生かす人がよう言うわ。

 あっ、褒めてしまいましたな。今のは無しで」

「くっ、くくく……貧民出身で火が好きなわしらみたいなクズを

 道を違えることなく、活かしきってくれたスベン将軍への恩を

 そろそろ帰さんといかんなぁ」

中年の女性は口を結んで真面目な顔で頷いた。

「マルハナーン様たち、こちらでしたか」

感じの良い背の低い男が、ガチャガチャと白銀に輝く重鎧をこすれさせて

二人に近づいてきた。

メボラがニヤニヤしながら

「取柄のある貴族将が来おったわ。

 クライバーンジュニア、どや、仇は取れそうか?」

男は黙って軽く頭を下げる。

マルハナーンが真面目な顔で

「クライバーン様は、偉大なる将軍じゃった。

 常に自ら戦場に赴き、スベン将軍と時に完璧に連携しながら帝国軍を防ぎ

 そして最期は卑劣なオクカワを見事に退けて逝った。

 うちの貧民出身の親戚たちにも実に評判が良いぞ」

「……ありがたい限りです。父の名を汚さぬよう、気を更に引き締めます」

メボラが燃えている花を指さしながら

「花は言われただけ残して、あとは焼いたわ。

 北の谷で、賢人卿様がどれだけ協力してくれるかやな」

「そのことなのですが、北の谷は開けておけとの司令官代理様からの指令です。

 ドハーティー卿様たちが少数精鋭で受け持つと。

 我々オースタニア軍は南の谷に結集して、敵の増援を受け持てとのことです」

マルハナーンは顔をしかめて

「ヤマモトたちが来ると?」

「はい、ジンカンもこちらへと誘い出されるだろうと」

メボラは顔を歪めて笑いながら

「将軍、本気出さんとなぁ。恐らくは我らの死地やで」

と言った。

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