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ニンゲンスレイヤー  作者: 弐屋 中二


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目的

一時間後

北部拠点の北七キロの地点



「うぅぅぅ……何で、私も……」

雪山の斜面を下る揺れる雪進船の中で、船体後方の取っ手に掴まったハーツが愚痴る。

伸ばしている触手を使って操舵輪を操作しつつ船の前部に掴まって座っているグランディーヌが前方を見つめながら

「私とタナベさんだけじゃ、無理かもしれない。そんなときは、ハーツちゃんの"言葉"を使いたいの。イエレンの説得の時に上手くいったでしょ?」

「よくわかんないけどぉ……要らないでしょお……」

涙目でそう言ったハーツの背後で取っ手に掴まって金属の塊を指で押しているタナベが

「ハーツさん、リュウはイエレンと拠点の警護をさせておきたいんだ。それに……」

チラッと船前方のグランディーヌを見る。

彼女は体勢を変えずに頷いて

「……オクカワ・ユタカは恐らく能力が封印されてるので今は心配ないけれど、ジンカンは野放しなの。ハーツちゃん、分かるでしょ?私とハーツちゃんが居なくなれば、必ずジンカンはヤマモトさんに接触してくる」

ハーツは泣きそうな顔で

「分かるわけないでしょうー!」

グランディーヌは苦笑いしながら

「ヤマモトさんには、闇に潜んで他の転移者を操ってるジンカンの目的を訊けるよう、幾つか、さりげない質問を教えておいた」

タナベが頷いて

「ジンカン君は信用できない。だからできるだけ、彼の考えを知っておきたいんだ」

「うぅ……タナベさんがそう言うならぁ……」

ハーツは渋々と頷く。



同時刻

オースタニア王国ジャンバラード城内

小会議室



ターシアが目を丸くして

「……あんたたち、それ、二人で考えたの?」

クリスナーが苦笑いしながら

「司令官代理が、ほぼ一人で、ですよ」

バラシーは得意げな顔をしようとして、すぐに恥ずかしそうにボサボサの髪をかくと俯いた。

ターシアは真面目な表情になり

「……いけるわ。その作戦に私の情報を加えて多少修正を図れば、確実に二人同時に葬れる。ジジイ、正念場よ」

ドハーティーは温かな微笑みを浮かべ

「……人間の気高い意地は面白かろう?」

ターシアは目を細め

「……本気で守護天使になってやってもいいかもしれないわね。あんたたち二人、スベンなんて目じゃないかもよ?」

そう言った瞬間に二人が立ち上がり

「そんなわけがありません!」

「爺ちゃんは永遠に王国最高です!」

本気で訴えてきたので、ターシアはニヤニヤしながら顔を逸らした。



二時間後

北部拠点テント内



ヤマモトがテント内で座禅を組み、抜き身のシルバーソングをその膝に置いて瞑想のようなことをしている。

近くには、ファルナ王女の偽物か本物かまだ真偽の分からない女性が寝袋の中、静かに寝ている。


「ヤマモト・リュウジ君はいらっしゃいますかー」

コートを着込んだジンカンがスルッと入ってきた。

「よう、アキノリ。皆がそろそろ来るころだと言ってたよ」

ヤマモトがニカッと笑いながらシルバーソングを鞘に納めると、ジンカンはすぐ近くに座り

「仲間の魔法生物が予見したんだろ?俺が尋ねてくるってことを」

ヤマモトが微笑みながら頷くとジンカンはチラッと寝袋の中の女性を見つめ

「……ジャンバラード近郊の谷に、ナベちゃんたちを援けに行くんだな?」

心配そうに尋ねる。

「ああ、俺はあいつら嫌いだからどうでもいいんだが助けとかないと、次の標的は俺たちなんだろ?」

ジンカンは深く頷いて

「……そのことで話があるんだが相手は谷に罠に加えて、駒を揃えているはずだ。厄介なターズはナベちゃんが竜騎国の首都で戦闘不能にまで追い込んだが、相手は谷で二名の強者を揃えて待ち構えてる」

ヤマモトは素直に

「どうしたらいいと思う?」

尋ねた。ジンカンは少し考えるような仕草をすると

「……ヤマモトには、でかい女のバラシー司令官代理と、美男子でスベン家の跡取りのクリスナーを横やり入れて殺してほしい。罠や二名の強者は、ナベちゃんとクマダ君に任せても大丈夫だ。俺も現地に行く」

「……そいつらが邪魔なんだな?優秀なのか?」

ヤマモトが鋭い目つきで尋ねるとジンカンは笑いながら

「知能指数の高さと過酷な実戦経験、そして良い師に恵まれた天才が二人も同時に開花しようとしていると言ったら、俺たちにとって、どれだけ脅威か分かるか?」

ヤマモトは首を傾げながら

「お前とユタカさんに脅威なんかないだろ?何を恐れてるんだ?」

と尋ねた。ジンカンはニヤリとして俯くと

「魔法生物に指示された質問だろ?答えてやるよ」


「俺とユタカさんは、この世界を支配する女神を殺したい。そのために危険な芽は早めに摘み取りたいだけだ」


と言って立ち上がった。

そして去り際に

「……二人を助けるかどうかは好きにしてくれ。ヤマモトとタナベ君にはオースタニアの統治で辛いことをさせたからな。ずっと隠れていてくれても構わない。ナベちゃんたちは俺が動くから、どうにかなるだろうしな」

ヤマモトは黙って、シルバーソングを抜き

また瞑想のようなことを始めた。

ジンカンは静かにテントから出ていき湯気の出ている岩場を歩き始める。

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