弱点
メイドたちが持ってきた食事を、食べている三人をターシアがつまらなそうに頬杖ついて眺めている。
「……よくもまぁ、取り込んで出してを繰り返すわ」
嫌そうに呟いたターシアをクリスナーが爽やかに微笑みながら
「食べることは人の楽しみですよ」
ドハーティーも頷いて
「旨いもの食って、寝れば嫌なことも忘れ、活力が出るというものじゃ。守護天使殿よ。人とは、意識が連続していないが故に強くもある」
「……まあねー。あんたみたいな、悍ましい人間に言われたくないけどね」
ドハーティーはニコリと笑ってまた食べ始めた。
皆が食べ終わり食器が片づけられるとターシアが頬杖を突きながら
「あんたら脅して遊ぶのも面倒になったから、さっさと今回の目的である煉獄から来た子供たち二名の身体的特徴とそれぞれの能力とか、弱点みたいなの話していい?」
すっかり平静を取り戻したバラシーがサッと
紙とペンを取り出した。
「……やる気はまだあるみたいね。よろしーい。じゃあ、話すから」
ターシアは頬杖を突いたまま
「まずはどうでもいい方からね。今回来るであろう二人組の背の高い方はクマダ・ユウジっていう姓と名なの。姓がクマダで、名前がユウジね。身長は恐らく183~186センチくらい。やせ型で引き締まった筋肉を纏ってるわ。年齢は、17~18歳くらいかな」
年齢を聞いた瞬間に、クリスナーたちが驚いた顔をする。
「本当に子どもなんですね……」
ターシアは顔を歪めて
「ずっと子供って言われてるでしょうが。大体子供じゃないと、あんな膨大且つ豊かな能力持ってるのに、ここまで統治に失敗しないわよ。オースタアに王国では、捕まえた戦争関係者皆殺しにしたんだって?要するにバカでしょ?世間知らずのバカは子供の特権よ」
クリスナーたちは黙り込んだ。
「で、クマダ・ユウジの能力はあらゆる属性攻撃の無効化。そして、吸収したエネルギーを雷撃に変換して吐き出すことができる攻撃能力ね。8人の転移者の中では、防御カウンター特化のディフェンダータイプってとこかな」
クリスナーが悔し気に
「オースタニア魔法兵団が協力して放った、渾身の混成魔法が即座に吸収されたのは聞いてます……」
ターシアは笑いながら
「それも知ってるけど、良い線いってたのよぉ?もう2つくらい属性混ぜてたら傷くらいは負わせられたかもね」
バラシーがオドオドと
「つ、つまり炎氷土風陰陽等の六属性などで、同時に攻めれば吸収が間に合わずに傷つけられると?」
ターシアはニヤニヤしながら
「……半端な威力だと、いくら属性が多くても無理だわ」
「わ、わかりました。想定している罠を変えなければ……」
バラシーは素早くメモし始めた。
クリスナーがターシアに
「他に弱点は?」
ターシアが呆れた顔をして
「知ってて聞いてるでしょ?"死にたがり"なのよ。戦士としては致命的な欠陥よ。脳内快楽物質の放出のために低確率に挑み続ける哀れなギャンブラーね」
クリスナーが真面目な顔で頭を下げるとドハーティーが頷いて
「そこは既に、バラシー司令官代理の策に組み込まれておる。さあ、ワタナベの話をしてもらおうか」
ターシアは真面目な顔に急になり
「……私が考える、煉獄の子供たちの三強の一角よ。最強はオクカワ・ユタカなのは確かだけど次に強力なのは、ワタナベよね。彼の想像力と原材料の欠片が尽きぬ限り、恐ろしい兵器が生み出され続けるわ」
「……原材料の欠片とは?」
顔を上げたバラシーがいきなり鋭い目つきで質問した。
「……例えば、銃弾を造るためには硝石だけじゃなくて鉛などの材料が他にも必要でさらに言うと、強力な銃を造るにはもっと複雑な工程が必要なんだけどワタナベは硝石を食べるだけで、銃を生み出すことができる」
バラシーは頷いて、即座にメモし始めた。
それをターシアは見つめ
「ああ、ワタナベの特徴は身長162~65くらい。17〜18歳というとこね。太めで、能力を使い切った直後は痩せてることもあるわ。恐らくは原材料を"食べる"ことに関係してる。痩せてる時はチャンスだけど、新たな能力の発現前の可能性もあるから注意してねー」
ドハーティーが首を傾げて
「三強の最後はジンカンかの?」
ターシアは難しい顔で
「ヤマモトかジンカンよね。ヤマモトは帝都から持ち出したシルバーソングと相性抜群なのがタチが悪い。ジンカンは……"理解"の能力は恐ろしいけど……うーん。あの手のサイコ野郎は、歴史上良くいたからなぁ。ブランアウニスっていう性格最悪の大悪魔がサイコ界では頂点だしなーどうだろうー?」
ニヤニヤし始めた。
クリスナーが不思議そうな表情で
「オクカワ・ミノリは?俺も城外で数十秒戦いましたが、化け物でしたけど……」
バラシーが補足するように
「……副官は、名家スベン家の跡継ぎなので同僚が庇って逃したんです……」
ボソッと呟いた。クリスナーは悲しそうな顔をして口を閉じる。
「……まあ、ユタカじゃなくて、ミノリの方は能力が"魔法"だからね。魔法ってのは結局システム……いや"理"なのよ。仕組みにはつけ入る隙が必ずある。だから、ブランアウニスの狡猾な策にあっさり退けられた」
クリスナーが尊敬した眼差しをターシアに向け始めた。
ターシアはそれを嫌そうに遮るよう
「余談が過ぎたわね。じゃ、ワタナベの私が推理する弱点の説明と殺す作戦について詰めましょうか。ほら、まずはバラシーちゃんが必死に考えたくっだらない罠について聞かせてごらんなさい?」
冷めた目で言い放った。
同時刻
北部の拠点
4人が焚火を囲んで、昼食をとっていた。
「あーお肉美味しいなー」
ハーツが焼きたての串焼き肉を頬張っている。
グランディーヌが難しい顔で
「テントで寝ているファルナ王女が偽物だったとして、本物を今頃ワタナベたちが手に入れている頃だ……」
「食べようよ!美味しいよ!」
ハーツからバンバン背中を叩かれてもグランディーヌは考え続ける。
「だとするならば……やはり、私たちの代わりに罠にかかるのは、ワタナベとクマダ……」
と言いながら彼女はチラッとヤマモトとタナベを見つめる。
ヤマモトが肉をかみちぎって咀嚼した後
「助けろと?クソどもを?」
嫌そうな顔をする。
「……私も、二人がやってきた所業を聞く限り……特にワタナベは嫌い。恐らくは銃撃で相当な人を殺している。……でも、数が減ると狩られる対象は絞られる」
タナベが頷いて
「……その通りだよ。リュウ、ワタナベ君たちがやられたら、次は、確実に僕らだ」
ヤマモトは腕を組んで
「……うーん、どうしたらいいんだ?」
「……仇のワタナベを助けるなら、イエレンは使えない。それに彼が文句も言わずにここから動かないのはあのファルナ王女が、本物だと思っているからかもしれない。そうだとすると、余計に動かすことはできない」
「雪進船使うしかねぇのか……」
グランディーヌは首を横に振り
「ここから北に二十キロ地点に小型竜種ワイバーンの巣がある。ワイバーンを移動に使うのはどう?」
そう言って、タナベを見つめた。
大ごとになりそうな気配を察したハーツはむせ始める。




