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女神の血

数秒後。



焼け焦げた瓦礫がそこら中に広がっていて

その何もない中心に突っ立っている

痩せこけたワタナベがため息を吐いた。

「……思ってたより威力弱いなぁ。

 城が全壊した程度か……デザイン失敗したかな。まあ、いいや」

そう言って、後ろを向き歩き出し

ふと背後を振り返る。

「何か視線が……いや、気のせいか」

そのまま黒焦げの瓦礫を登って北の方へ去って行った。


ワタナベが去って数分後に

周囲の瓦礫から、頭の無い焦げたローブを着た死骸がいきなり顔を出す。

そして自らを包んでいる虹色の膜をバリバリと取り去って

フラフラと先ほどワタナベが立っていた場所へと歩いて行き

しゃがむと、血まみれの両手で足元の砂を集めはじめた。

ある程度、砂を集め続けると

その死骸はパラパラと自分の身体へと

砂をかけ始める。

そして、月明かりに照らされるように

両手を掲げると、ボコッボコボコ……ボコと首から

ゆっくりと頭がせり出してくる。

ヌメヌメした粘膜に覆われた頭が完全に再生して

その粘膜を両手で取り払うと

アーシィの顔だった。

「……どうにか、成功したか。

 ありがとねターズさん、"女神の血"はやはり素晴らしいわ」

ニヤリと笑いながら

「我らが主役を蘇らせないとね」

そう言いながら、再びしゃがんで

今度は足元の砂を集め始めた。

「虹色の砂だけを、できるだけ多めに……」

アーシィは月明かりの中、目を凝らして砂粒を

集め始める。


その頃


竜騎国の城下町の真っ暗な裏路地を

痩せこけてスコープの付いたスナイパーライフルを

二丁両手に持ったワタナベと、

ファルナ王女を背負った泥まみれのユウジは歩いていた。

「放射能とかはいいのか?」

ニヤニヤしながら尋ねたユウジにワタナベは

血走った目で

「……僕は、僕の能力による破壊に一切影響は受けない。

 ユウジ君とファルナちゃんは爆心地から離れてたから

 大丈夫だと思う」

「瓦礫の処理に入った一般市民が

 一番悲惨だな」

「……極小規模だし、そんなに長い間は残留しないよ。

 それに僕らが死にかけてた時に誰も助けてくれなかったし

 そこまでは面倒見きれない」

ユウジは笑いながら

「そうだな。分かってたが、何の助けも無かったどころか

 城ごと敵方に協力してたしな。

 大臣どもの屋敷を襲撃して、ついでに殺していくか?」

ワタナベは首を横に振り

「スズナカさんの操心術の効果がどうなってるか分からないし

 今は、逃げることに徹しよう」

と言いながら、スナイパーライフルをいきなり背後に

ぶっぱなした。

遠くで大柄な人影が倒れる。

「敵か?」

「だと思う。もし違っても、もういいよこんな国」

「そうか、お前やっぱり狂ってるな」

「どうでもいいよ。さっさと、逃げよう」

二人は路地裏の闇へと消えていった。



翌朝

オースタニア王国、首都ジャンバラード城内

大会議室。



円卓を囲んで、ドハーティー、バラスィ、クリスナー

そして他のオースタニア王国の高官たちや、武将たちが並んでいる。

ドハーティーが立ち上がり

「まずは感謝を述べさせて頂きたい。

 帝国の小領主如きに、これほどの面々がお集まり頂いたことに」

バラスィがすぐに立ち上がり

「あーこの間までの敵国である、帝国の領主であるドハーティー卿だが

 今回は恨みは忘れて、皆さんには話を聞いて貰いたい」

そう長身から、皆を見回すと、年配の男女の粗野な武将たちが一斉に

「泣き虫バラスィも偉くなったもんだなぁ!!」

「司令官代理殿はお幾つですかー!私六十三ですけどー!」

「お前みたいのが司令官とか世も末じゃわー!」

「仕切るにも格っちゅうのが必要じゃろがい!」

「お嬢さん、また振られたっちゅう噂は本当ですかー!」

などとゲラゲラ笑いながら煽ってきた。

「おっ、お前らぁ……示し合わせてたなぁ……」

バラスィがプルプル震えながら立ち尽くしていると

隣のクリスナーがサッと立ち上がり、胸に手を当てて

「まずは、爺ちゃん……いや、祖父であるスベンに代わり

 皆様に集まってくれたことに、感謝したい。

 バラスィ司令官代理、どうぞご着席を」

年配の武将たちはサッと黙って、胸に手を当てて黙とうする。

バラスィが顔を真っ赤にして着席すると

再びクリスナーは口を開いて

「我が祖父の命により、私クリスナー・スベンは

 昨日より、正式に司令官代理補佐として

 王国軍に再編成されました。

 これより、身命を賭して司令官代理に仕えていくつもりです。

 皆様、宜しいお願いします」

誠実な顔でそう言うと、円卓に並んだ高官や武将たちから拍手が起こる。

クリスナーは一礼をして、チラッと

温和な表情を浮かべながら、立ったままのドハーティーを見つめて着席した。

彼はニコリと笑うと

「オースタニアの新世代のお二人が、とても有能であり

 愛されていることを私も祝福したいと思います。

 そして、スズナカたちに唆された帝国の好戦派の愚か者たちの代わりに

 今、この場で小さいですが、謝罪をいたします。

 本当に申し訳ない」

と深く頭を下げた。沈黙が続き、ドハーティーは頭をあげると

静かに着席して、そして再び口を開く

「私が、この場を代理王様に設けて貰ったのは

 皆様に、我が帝国と同盟を結んで、煉獄の子供たちを

 討伐する軍を起こしてもらいたいからです。

 もちろん、帝国軍と連携する必要はありませんが

 連携していただけるのならば、竜騎国から煉獄に居る子供たちを

 追い出しやすいとは思います。如何でしょうか?」

誰も口を発しない。皆、腕を組み黙り込む中

バラスィがビクビクした顔をしながら

「……検討する価値はあると思う。

 彼らをこの地上から駆逐しないと、我々の安息はいつまでも訪れない。

 そのためには、昨日までの敵国との同盟も必要だろう」

クリスナーが深く頷いて

「私も、司令官代理のお考えに賛成です。

 異論がある方は?」

何人かの高官や武将が手をあげて質問や議論が始まった。

ドハーティーはそれをにこやかに眺める。



同時刻、北部の拠点。



晴れ渡った空の下

「あー……温泉いいわー」

ハーツとグランディーヌが並んで人間用に掘られた温泉に入っている。

遠くにはイエレンが自分用の温泉に浸かっているのも見える。

さらに遠くのテントからは湯気が立ち上っている。

グランディーヌは大きく息を吐きだして

「何とか、こっちに降りかかってきた危機は乗り切ったと思う」

「そうなのぉー?もうあんなのは嫌だよぉ?」

ハーツはボーっとした顔で答える。

「……王様はきっと、私が私たちの危機を予測して

 避け切るのを分かってた。

 じゃないとあんなに多重に罠を仕掛けない」

「……王様、頭良すぎるからねぇ。

 時々、難しすぎて意味わかんなかったなぁ」

ハーツは懐かしそうに話す。

「ただ、イエレンが今は黙ってるけど

 いつ本物の王女を探すと言い出すか……」

ハーツが不思議そうな顔して

「……あの、偽物って言ってた

 テントで寝てる女の子だけど

 本当に、偽物なの?」

グランディーヌは難しい顔で

「……正直、分からない。

 身体的特徴は完全に一致していて、首筋の紋章が無いだけだし

 だけど、あの状況だと偽物だって

 みんなに言わないと、罠にはまりに行くのは目に見えてたから……」

「そっかぁ……まあ、ゆっくりしようよぉ。

 もう、いいよ世界のことなんて」

「……私もそう言いたいけど、まだきっと何かあるよ。

 タナベさんの能力を借りて、情報収集はしっかりしておく」

「うぅ……せ、せめて死ぬ前にタナベさんと添い遂げたい……」

二人は黙って、青空を見上げる。

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