表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/166

ターシア

当事国、深夜のジャンバラード城内

地下牢。



石造りの狭い牢屋のベッドで

ムクリと少女の姿のターシアが起きた。

真っ白なローブを着た彼女は

ボサボサの髪をかきながら裸足で立ち上がり

鉄格子の外の誰も居ない通路を見つめる。

目を細めたターシアは

「あーそういうことか。

 石の質から言って、オースタニアのどっかの城で

 そこに隠れてるあんたは、オースタニアの関係者ね」

真っ赤な下地に金の刺繍がされて

沢山の勲章がついた士官服姿のバラスィが出てきた。

長身のバラスィはビクビクしながら

格子の前へと出てきて

「オースタニア王国軍代理総司令のバラスィです……。

 あ、あなたは……」

ターシアは腕を組んで、格子の近くまで歩いていくと

長身のバラスィを小柄な体で睨み上げ

「……ただの人間か。で、悪魔たちは消えたんでしょ?

 煉獄の子供たちに襲撃を仕掛けて」

バラスィは顔を半分隠したボサボサの髪の毛先を触りながら

「うぅ……ブラウニー公はやはり悪魔だったのか

 ルバルナ摂政代理も……」

ターシアは顎をあげて

品定めするようにバラスィを見つめると

「頭は悪くないようね。

 で、何?私にどうして欲しいの?

 言ってごらんなさい。聞くだけはしてあげるわ」

バラスィは額の汗をハンカチで拭うと

「……ブラウニー公の置手紙によると

 あなたは強力な天使ターシア様で、

 そして、我々に協力してくれると書かれているのです……」

ターシアがニヤニヤしながら

いきなり背中に真っ白な羽根を出現させると

バラスィは一瞬絶句して、震えだした体を止めるように

二人を隔てている牢屋の格子を両手で強く握りしめ

「……天使ターシア様、我々オースタニア王国はあなたを

 創造神ファルナバル様から遣わされた守護天使として受け入れたいのです」

そしてハッと思い出したように

激しく震えながら、その場に跪いた。

ターシアは急につまらなそうな顔になって

「……そういうの良いから。見飽きてる。

 私をどういう風に、あんたたちの都合のいいように

 使いたいかさっさと言いなさいよ」

バラスィは引きつっている顔をあげると

「数日以内に、このオースタアに首都ジャンバラード近くの

 ネルン谷に、煉獄の子供たちが姿を現します。

 守護天使ターシア様には、彼らを抹殺していただきたい」

ターシアは目を細めて、ニヤニヤしながら

「良いわねぇ。そうこなくちゃ。

 人間って偉そうな建前抜かして、ゲスな目標に邁進する

 ゴミみたいな生き物だもんねぇ」

バラスィはサッと立ち上がると

「……天使様、今の発言を取り消してください。

 少なくとも私の師は、そんな人ではありませんでした」

ターシアはニヤニヤしながらバラスィを見上げて

「……で、私が煉獄の子供たちを殺す見返りは?」

バラスィ少し口ごもった後に

「守護天使として奉り、首都の焼き払われた地に大神殿を建てます。

 王族たちは永遠に、儀式によりあなたを敬うでしょう」

ターシアは顔を歪めて

「……それは前提でしょ?

 それ以外に何ができるのってんのよ」

バラスィが返答に困っていると、すぐ横から

「……天使様、何が欲しいか、まずは教えてくださいませんと」

ニカッと笑った制服姿のクリスナーが

両手に真っ白に光る原石を二つ持って現れた。

ターシアは一瞬、唖然として

「よ、よくそんな大きな……」

クリスナーは整った顔で爽やかに笑うと

「去って行ったブラウニー様からのお心づけです。

 これが前金で、成功報酬でさらに七個を後日

 帝国のモウスミル伯爵より頂けるそうです」

ターシアは嫌そうに顔を背けて

「あいつ、本当に嫌いだわ。

 私の大切な彼を二度も奪って、まだ私から……」

そうブツブツと呟きだした。

戸惑うバラスィの袖をクリスナーは引きながら

「……返事をお待ちしております。

 お心が決まったら、いつでも牢番に声をかけてください」

そう言って、狭い牢から遠ざかって行った。


十数分後。

ジャンバラード城内、玉座の間。


代理王マーリーンが不安げに玉座の上から見下ろす中

まだ震えが止まらないバラスィのその隣、両眼を輝かせているクリスナーが

「代理王様!ブラウニー公の置手紙の通り

 牢に捕らえられていたのは本物の天使様でした!」

代理王は、真っ青な顔で頷いて

「ご、ご苦労」

クリスナーは明るい顔で玉座を見上げながら

「いやーブラウニー公のお知恵には

 去って行った後にも、驚愕させられますね。

 天使様を見る機会があるとは!」

マーリーンは泣きそうな顔で

「……それはそうとブラウニー公も、ルバルナ代理摂政も

 急に居なくなって……この国はどうすれば……」

クリスナーは胸を張って

「有能な後任の方に引継ぎはとうに済んでおります。

 あとは、天子様がご決断なされば

 ブラウニー公のお手紙に書かれた煉獄の子供たち排除の計画が実行されるでしょう。

 すでに先駆けてターズ将軍は手勢と共に竜騎国へと旅立たれましたし」

バラスィが震えを必死に止めながら

「代理王様、軍事担当の、わ、わたくしが言うのも何ですが

 オースタニア王国の隠れた人材はスベン将軍とブラウニー公が

 発掘しつくしており、これから我が国は全盛期に入る可能性が

 非常に高いかと思われます……」

代理王は無理した顔で微笑むと

「信頼するお二人がそう言うのならば、信じましょう。

 ところで、あなたたちに会わせたい人がいます。

 入りなさい!」

玉座の間の扉が開いて

ゆっくりと温和な雰囲気のドハーティーが入ってきた。



同時刻、北部の拠点。



テントから出てきたグランディーヌが険しい顔で

「ヒサミチさんと調べたけど、やはり、王女本人じゃなかった。

 首筋に王家の紋章が無い」

ヤマモトが舌打ちしてから

「何か、おかしいと思ったんだよ。ヒサミチのスマホの検索情報だと

 襲撃者のうち二人は、竜騎国の忠臣だろ?

 あんな危険な場所に王女本人を置くわけないしな」

テント内を見つめる。

グランディーヌは眉を顰めて頷き。

「……多分、影武者だと思う。

 危なかった、谷に行っていたら何が起こっていたか」

「どうするんだ?」

グランディーヌは首を横に振り

「何もしない」

「影武者は放っておくのか?」

「そうするしかないと思う。いま下手に動いたら危ない。

 それに、しばらくは放っておいても彼女は生存はするはず」

「……まあ、明日考えるか……」

グランディーヌは深く頷いた。



数時間後、竜騎国首都城下町。



人通りのない深夜の通りを

ボロボロのユウジと

やせ細ったワタナベが歩いていた。

「ゲボッ……」

濁った水の入った透明なスナイパーライフルを杖代わりにしたワタナベが

血を吐き出して立ち止る。

「おい、ゴン。そろそろ死ぬのか?」

クマダが血と泥で真っ黒な顔で尋ねると

ワタナベは首を横に振り

「……ファルナちゃんに会うまでは死ねない」

身体を引きずるように歩き出す。

「そうか……。

 しかし、迂回路にまでゾンビだらけとはな。

 まるで、俺たちの位置を知っているようだったな」

「……」

ワタナベはその声にはもう答えない。

遠くに見えている城郭を見上げながらゆっくり進んでいく。

「……数千体は潰したな。

 次来たら、さすがに終わりかも知れないな」

ユウジは窮地を楽しんでいるように

ニヤリと笑って、満身創痍のワタナベの背後をついて行く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ