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ニンゲンスレイヤー  作者: 弐屋 中二


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88/166

衝突前

廃墟の中から立ち上っていく無数の人影が

次々に現れていく、そして人影たちは東へ向け廃墟を透過しながら素早く移動し始めた。

俺は、砂漕ぎ船の上からその様子を見回しながら

「アーシィ、ちゃんと説明しろ」

ジェシカにまだ胸ぐらを掴まれている

小柄な黒魔術士に尋ねると余裕のある笑みで

「ちょっと、落ち着いてくれない?」

ジェシカは舌打ちすると手を離した。

アーシィは座り込んでそこら中から現れた人影が、次々に東へと向かっていく光景をニヤニヤしながら眺め

「出る前に言ったでしょ?ワタナベに渡した硝石には特殊なものを混ぜ込ませていたって。だから、ワタナベの銃弾で殺された人間たちには深い恨みが残るのよ。死んでもね」

これ以上は言われなくてもわかった。

「この街で戦った人々をアンデッドにしたのか……死者たちが今向かっているのは、身体の埋められた墓地だな……」

ジェシカが怒りに満ちた顔で立ち上がるが、即座にゴーマから背後から羽交い絞めにされ

「ジェシカ様、死者です。生者ではありません。落ち着いてください」

「しっ、しかし、同意のないものをアンデッドにするなど!」

俺は黙って立ち上がり、ゴーマの代わりに操舵輪を握る。

アーシィはまったく動じない顔で

「一般人じゃないのよ?戦士たちよ?むしろ、死んだ後もワタナベ目掛けて進軍できて光栄じゃないの?」

「全員がそうではないだろうが!!死んでまで戦い続けたい者がそうそう居るものかっ!」

ジェシカがゴーマから抑えられながら叫ぶと

アーシィは黙って、操舵輪を握る俺を指してきた。

俺は頭巾を被った頭を横に振ってから

「……俺は自分の復讐を人に押し付けるつもりはない。つもりはないが、もう既に発動してしまったのならば、死者たちには悪いが、利用させてもらう」

ゴーマが真っ白な前髪で半分隠れた顔で頷き

「ターズさん、戦士として正しい判断です。ジェシカ様、堪えてください。我ら四人だけで、煉獄の子供たちと戦うよりも遥かに勝算が立ちます」

「くそっ……そんなことは最初から分かっている!」

ジェシカはそう言うと、手を離したゴーマから離れ、船尾の方へと行き、後ろを向いて座り込んだ。

操舵輪をゴーマに返し、船前部で座り込むとアーシィが後ろに座って小声で

「反対すると思ったけど、冷酷なのね」

妖しげな声で言ってくる。

「いや、クソガキどもを殺せるなら何でも利用する。いずれ、人の道を外れた罰は受けるつもりだ」

「くくく……」

アーシィは口に手を当てて、笑いを漏らした。



二時間後

山崩れを起こした廃城跡



泥だらけで穴を掘っていたユウジが

「ナベワン、居ねぇわ。少なくともここには、本物のスズナカは居ない」

近くで穴を掘っていたワタナベも泥まみれの額を拭い

「……うん、僕もそんな気がしてきた」

「首都に帰るか」

「そうだね。ファルナちゃんがどうなってるか心配だし」

ユウジは頷いて

「ジンカンもどっか消えたし、頭の居ない俺たちを殺すなら今が好機だよな」

ボソッと呟く。それを耳聡く聞いたワタナベが

「クマダ君!やめてよぉ……もう、怖いのはあれで終わりにして欲しいよぉ……」

ユウジはニヤニヤしながら

「俺らに殺された雑魚どもが怖くなかったわけないだろ。馬鹿かよ……」

聞こえないほどの小さな声で呟いた。



時間は進み、夕刻

ヤマモトたちの北部拠点



傷だらけのイエレンの背中に着込んでいる四人が乗りこんでいる。

グランディーヌが真面目な顔で

「じゃあ、ファルナ王女奪還は作戦通りで。ワタナベが阻止するなら排除するから」

タナベが横を向いて、シルバーソングを背負ったヤマモトは頷いた。

ハーツは震えながら

「ちゃ、ちゃんと守ってね!!

「私が死んでも守るから心配しないで」

「しっ、死んだらダメだよ!」

ハーツはグランディーヌに抱き着いた。

「……言葉の綾だよ。死なないよ」

四人が傷だらけの鱗を掴んで広い背中に座ると、イエレンはゆっくりと黄色い翼を羽ばたかせ全長五十メートルの身体を浮き上がらせていく。

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