お手伝い
同時刻、レナード城
城郭最上層、サキュエラの寝室
窓から朝日が差し込む、よく皺の伸ばされた清潔なベッドの紫のシーツの上、漆黒の靄が立ち込めて、そしてベッド脇で座った人型へと変化していき小柄なサキュエラの形へとなっていく。
完全に漆黒のローブを着た人型に戻ると
「はぁ……」
大きくため息を吐いた。
「ああ……王様、王様ぁ……王様の居ない地上なんて塵以下……あぁ……」
絶望的な表情でベッド脇にサキュエラはうな垂れた後に、両眼を輝かせて顔を上げた。
「……仕方ない……帝国で遊ぶかぁ」
不気味な程、爽やかに笑いながら立ち上がり、寝室の扉を開け出ていく。
山崩れした中
廃城の瓦礫が埋まっている山中
ワタナベが泥まみれになり、土や瓦礫を金属の板で掘っていた。
汗だくの額を拭うと彼は座り込む。
「だめだぁ……重火器で吹き飛ばしたら中に埋まってたら一緒に吹き飛ばすしぃ……」
焦った顔で辺りを見回して
「うぅ……クマダ君は僕より強いし、スズナカさんはここに居たのが本人か分かんないし、ジンカン君は間違いなく脱出してるよね……」
などと言っていると、すぐ近くの瓦礫が「ドガァァァァァァァァァ!!」という轟音と共に猛烈な勢いで噴き出した。
「があああああああああああ!!」
そして濁った獣の咆哮のような猛り狂った叫びが響く。
「ひゃあああああ!!」
ワタナベが土中から出てきた泥だらけの大柄な男に悲鳴を上げると、男はワタナベを見つめて
「ナベワン!!生きてたのか!」
濁った声で嬉しそうに駆け寄ってきた。
「あああああああああ!!食べてもおいしくないですううう!」
ワタナベは焦りながら逃げようとして、その場に尻もちをついて、泥だけの男は追いついた。
彼は口から泥を吐きながら
「ワタナベ!!俺だ!!クマダだ!」
「お、おおおおおお!!」
ワタナベは泥まみれのユウジに抱き着こうとして即座に避けられる。
「生きてたんだね!」
ユウジは迷惑そうにワタナベから離れながら
「……ああ、死に場所じゃなかったな。悪魔どもも、大したことないな」
顔の泥を拭っていく。
一時間後
さらに山中から数百キロ南方の竜騎国南部
先ほどアーシィが廃墟になった大都市跡の中心付近で改造砂漕ぎ船を停止させた。
自信満々で大事なやることがあると言うと、近くの焼け落ちた教会跡に走って行ったまま帰らない。
三人でいつでも出発できるよう砂漕ぎ船内で待機する。
辺りはレンガ造りの家々や、大通りの石畳がボロボロに破壊されていて痛々しい。
座って眺めていると、ジェシカが近寄ってきて
「……ここは、竜騎国の南部中心都市だったマレルダーンという街です」
「……お二人は、竜騎国の諜報員だったな」
俺がジェシカにそう返すと
「はい。この街はワタナベとクマダの二人がおよそ、二時間ほどで破壊しつくしました。住民は避難を終えた後だったから良かったのですが」
「……軍人の被害が大きかったと」
「その通りです。士官含め、精鋭が二千七百名ほど亡くなっています」
「徹底抗戦したんだな……」
オースタニアと同じだ。
二人で黙りこくっているとアーシィがニコニコしながら帰ってきた。
「終わった終わった!さあ、急いで出さないと危険よ!」
砂漕ぎ船に飛び乗ってきたアーシィは楽し気に言ってくる。
ジェシカが不快そうに
「いきなり停止しろと言ったり、また行けと言ったり、何をしていたのかまずは説明しろ」
「……大したことじゃないわ。まずは出してくれない?」
急に真剣な顔になったアーシィにゴーマが黙って起動させて、そして操舵輪を握った。
地上から少し浮かび上がり、廃墟の街中を
改造砂漕ぎ船は、高速で進みだす。
同時に辺りに、嫌な雰囲気が漂い始め、そして辺りの廃墟の中から真っ黒な人影のようなものが無数に這い出して、彷徨い始める。
ジェシカがアーシィの胸ぐらを掴みながら
「おい。我が国の街に何をしたんだ」
アーシィはニッコリと微笑んで
「ブラウニー様の策略のお手伝いよ」
そう嬉しそうに言った。




