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心のない人間

さらに現在

地震が続いている廃城屋上。


十秒かからずにバリアを破った四体の巨大な人型の火柱は

両手を頭上に掲げたユウジへと

覆いかぶさるように襲い掛かっていく。


「吸収!!炎!!うおおおおおおおおおおお!!」


そう叫んだユウジを瞬く間に呑み込んで

廃城全体を覆いつくすように

火柱は燃え盛る炎へと変容して

あらゆる割れた窓や、あらゆる隙間から

内部へと猛烈な勢いで入り込んでいく。


二階の廊下の窓を割り

両手に水が詰まっている二丁の透明な銃を持って

待機していたワタナベにも瞬く間に迫り襲い掛かろうとするが

ワタナベは、冷静な顔で

炎に向けて、透明な銃から猛烈な勢いで

水流を噴き出した。

勢いを減らした炎は逃げ散るように、ワタナベとは逆方向へと逃げていく。

彼は静かに背後の扉が開いた室内へと下がり

パタリと金属扉を閉めた。

城内の廊下を伝い、一階へと炎は

壁や床を焼きながら駆け巡っていく。

そして、一階のホールの床を焼き焦がしながら

滲み込むように

次々に染み込んで入って行った。


地下室でジンカンは

次第に紫色の発光が力を失いつつある魔法陣の上で

両眼を閉じて跪いていた。

「……五、四……」

とカウントダウンしてきたジンカンの頭上の

天井が真っ黒に焦げてきて

炎がまるで水滴のように彼の周囲に垂れてくる。

「……二、一……」

ジンカンは両眼を開けて

「ゼロ……!!勝った!!」

と顔を歪めて、いきなり立ち上がった。

同時に床一面を覆って落ちてきていた炎は

スッと消えた。



同時刻、北方の盆地。

ヤマモトたち逃亡者パーティーの拠点。



「ううう、来るんでしょ?もう?」


湯気が出ている真っ黒で平らな岩場に

心細げなハーツが、ショートパンツのシャツの薄着で

一人立っていて

ヤマモトたちは数メートル離れて立っている。

さらに距離を取って、巨体のイエレンも岩場の上に寝そべり

その様子を見守っているようだ。

グランディーヌがコートの中から十本ほどの

紫の吸盤のついた太い触手をうねらして出しながら

「ヤマモトさん、抜いて。

 タナベさん、あと五メートル下がって」

ヤマモトはシルバーソングを鞘から抜いて両手持ちする。

タナベは頷いて、右手に持った金属の塊をチラチラ見ながら

後ろ歩きで下がった。


次の瞬間には、ハーツの周りに漆黒の霧が包み込み

そして、その霧の中から大量の骨だけの腕が出てきて

ハーツをどこかへと連れていこうとする。

グランディーヌは

「いま!!やって!!ヤマモトさん!」

触手を一気にハーツに伸ばして

彼女の身体を包み込み、こちらへと引き寄せようとする。

霧の中から伸びる無数の骨がそうはさせまいと

ハーツの身体をそこら中から引っ張り始める。

「いっいたたたた!!」

異形の引っ張り合いにハーツが悲鳴を上げ

ヤマモトがその様子を見ながら


「歌え!!シルバーソング!!

 邪なるものを祓え!!」


シルバーソングを縦に体に引き付けて構えて

低い声で叫んだ。

一瞬にして、辺りに真っ白な光が広がって

「ゴブッ……ゲボァ……」

触手と骨の手から

両方から囚われているとハーツが鼻水と吐しゃ物を吐き出しだす。

「消えろ!!邪なるものたちよ!」

ヤマモトが今度は強く願ったような声をハーツに向けて

叫ぶと、ハーツの口から微かに血が垂れ始めて

白眼を剥き始めた。

そして、ハーツを包む黒い霧と骨の腕は

真っ黒な砂となり辺りに飛び散り消滅していく。

その場に倒れた薄着のハーツを

即座にタナベが駆け寄って、抱え上げると

そのまま、近くの岩場に張られたテントへと

駆けて行った。

ヤマモトはシルバーソングを

背中の鞘へとカチャリと音をさせて収めると

その場に倒れそうになり、何とか右足を出して跪いた。

「クソッ……やっぱりキツイな」

グランディーヌはシュルシュルと触手を

自らのコートの中へと収めながら

「……ありがとう。あなたのお陰で

 私のお友達と離れなくて済んだ」

コートの中からタオルを差し出した。

ヤマモトはその場に胡坐をかいて座り込むと

疲労困憊した表情で、タオルを受け取って

黙って、汗だくの額を拭きだした。

グランディーヌもその場に座り込んで


「ハーツちゃんが、弱すぎるから連れ去る力も弱くて

 運良く成功した。シルバーソングの破魔の力も

 弱すぎるハーツちゃんには、殆ど作用しないから助かった」


ヤマモトは大きく息を吐いて

「今、ハーツ以外の悪魔は、世界中に存在していないのか?

 その協定違反とかで?」

「そうだと思う。帝国に居る王様の使い魔も一時的に

 操っている人間の影武者に後を任せ

 逆さの楽土に戻っているはず」

「……竜騎国のアキノリたち無事かな……」

グランディーヌは冷静な顔で

「良くて、ジンカン以外の三人中二人ってとこだと思う。

 もちろん、ジンカンは死なない。狡猾だから。

 仲間を犠牲にしてでもあらゆる手を使って、生き残ってるはず」

「……お前も、そんなこと言うのかぁ?

 アキノリ、ほんといい奴だぞ?」

グランディーヌはニコリと笑って

「心のない人間は、親愛の情じゃなくて

 自らの利益で付き合い方を変えるの。

 ヤマモトさんは強い人間だから

 争うより、味方にしようと判断するはず」

「……そうかな。ヒサミチもアキノリに

 似たようなこと言ってたけど……」

グランディーヌはまた微笑みながら口を閉じた。


同時刻

廃城内地下室。


「やっ、やっぱり俺の能力は最高だ。

 全てのものを"理解"し読み解く力。

 これ以上のものはない。

 ユタカさんですら、俺の力の前にいつか

 ひれ伏すだろう……」

興奮した顔のジンカンがいきなり

ふーっとため息を吐くと、冷静な顔になり

「……追撃で魔法による地震で地盤を崩したことによる

 この廃城を巻き込んでの山崩れだろう?

 見え透いてるんだよ」

そう呟くと

揺れが激しくなった地下室から駆け出ていく。

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