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ニンゲンスレイヤー  作者: 弐屋 中二


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81/166

利用価値

同時刻

竜騎国首都から西に七十キロほど離れた場所にある山中に打ち捨てられた廃城内の埃塗れの大部屋の中



「ほんとに大丈夫?こんな、誰も居ない場所で」

ワタナベがカンテラで辺りを照らしながらジンカンに尋ねる。自らもカンテラを持ったジンカンが爽やかに微笑みながら

「もちろん、大丈夫だよ。俺達には兵士による防衛は必要ないだろ?それに、悪魔たちが四方八方から向かってきた場合、このくらい複雑な構造の場所の方がいい。それに……」

ジンカンは笑いながら

「いや、ちょっと地下室に行ってくる。"障壁"のスイッチを入れるタイミングを探るよ」

ワタナベは何かを勘づいた顔で

「……もう来るの?」

ジンカンは微笑みながら小声でワタナベの耳元に近づいて

「ああ、一時間以内だ。死ぬなよ、マイフレンドナベちゃん」

ワタナベは何度も深呼吸を繰り返して落ち着いた顔になると

「誰も死なないよ。……ジンカン君が嫌いなスズナカさんを見捨てなければね」

ジンカンは腹を抱えていきなり笑い出し

「やっぱり分かるよなぁ。ばれてたか」

ワタナベはいつになく鋭い目つきで

「……タナベ君たちは大丈夫なの?委員長は?」

カンテラでジンカンを照らしながら尋ねる。ジンカンは苦笑いしながら

「あっちは、こっちとは"罠の種類"が違うから、今日のタイミングじゃないと思う。時限式だな……だから、サポートするのは今じゃない。委員長は……ユタカさんが保護している」

「そっか……ねぇジンカン君。もし僕が今日死んでも、皆を頼むね」

ジンカンは背中を向け

「縁起でもないこと言うなよ」

そう言って、部屋を出ていって廊下に出た後ポツリと

「まだ、君のは使えるからね」

と無表情で呟いた。


ジンカンはそのまま階段を下り、城砦内の一階ホールでカンテラをそれぞれ持って待機しているスズナカとユウジの所へと行く。

「クマダ君、屋上に待機していてくれ。吸収は"炎"だ。三秒ほど耐えてくれ。すり抜けて城内に入ってきた悪魔たちはナベちゃんがやってくれるだろう」

ユウジは黙って頷いて、階段を駆け上がっていった。

「スズナカさん、悪魔たちは君を狙って一直線にやってくるだろうから、あっちの、食堂暖炉の近くに居てくれ」

「分かった」

スズナカは嫌そうな顔して頷いた。

その背中をジンカンは思い出した顔で呼び止めて

「……各地に、デコイは撒いてきた?」

「言われたとおりにやった。国中から似た顔の女子を集めて金髪に染めて私だと思い込ませて東西南北に、私の囮として置いてきた」

「よし、君はここに居れば安全だ」

食堂へと去っていくスズナカの後ろ姿をチラッとジンカンは見ながら

「……ここに居れば、ね」

とまた呟いた。



ほぼ一時間後

竜騎国国境線数メートル南の山中



紫色で継ぎはぎの頭を晒したブラウニーが

大柄な黒馬に乗り、その背後に、数十人の

漆黒なローブのフードを目深に被り微動だにせずに跪いた黒魔術師たちを従え

「諸君、狡猾なるジンカンは、目の前に見える竜騎国国境南端のナグスェル城跡に他の三人を引き連れて籠った」

そう述べ、山間から見える廃城へと目を細め、そして残った一本の左腕を夜空に出ている月に向けて掲げると

「……かの城砦は悪名高き"魔法障壁"発生装置が仕掛けられている。だが諸君、それは我々の想定内だ。タナベがまだ生きているということ以外は私の計画に狂いは生じていない」

ブラウニーは掲げた片腕を下げ、満足げに笑うと

「……時間だ。久しぶりの地上は中々に楽しかった。ではジンカンを狩りに行こうか」

そう言うと、大柄な馬ごと静かに身体が炎に包まれだした。

背後で跪いた数十人の黒魔術師たちも、呼応するように次々と激しく燃え始める。

延焼した辺りの山林が瞬く間に業火に包まれていき激しい火柱は百メートルほどの人の形になった。



再び、廃城跡

その数十メートル下層に造られた地下室



ジンカンが冷や汗を垂らしながら殺風景な地下室内の床に大きく描かれた紫色に激しく発光する魔法陣の中心に立っていた。

「……かっきり二十七秒しか障壁は張られない。そして二十七秒も持たない。残りはクマダ君とワタナベ君に頼る、三十秒耐えれば勝てる。一秒の狂いも許されないな」

そう言った後に、またポツリと

「……戦力分散させる囮は置いてきた。ごめんね。君の利用価値はもうないんだ」

自らを納得させるように呟いて

「三、二、一……!」

思いっきり魔法陣の中心を踏みつけた。


廃城の地上から数十メートルある最も高い位置の屋上ではユウジが空を見上げ、顔をこれでもかと歪めて大笑いしていた。

彼の見上げる雲のない夜空には、四方から百メートルほどの大きさの人型の火柱が迫っていた。

「ははははははははははははははははは!!ここが俺の死に場所か!!」

そう叫ぶのと同時に、廃城全体が紫色の透明なバリアに包まれる。

人型の巨大火柱は四方からバリアに覆いかぶさるように寄ってきて、バリアを巨大な手足で激しく蹴ったり殴ったりしながら歪め始める。

「チッ、つまらん……」

ユウジがそう言った瞬間に

城全体、いや山中全体が地震に遭っているように、猛烈に揺れ始める。

同時に城を包む、バリアが薄れ始めた。

1体の人型巨大火柱が、薄れた部分から両手を入れてバリアをこじ開け出す。

「おお、いいぞ……来い!!来いよ!!生きている実感を感じさせてみろ!!」

ユウジはそう叫んで、両手を頭上へと広げた。



襲撃の一分前

ところ変わって、竜騎国首都城内の大浴場



「はぁ、やってらんないわ。なーにが、私が標的だから囮になれよ。ジンカンのやつ、一人で死ねばいいのに」

金髪を、頭に巻いたタオルで束ねたスズナカが一人で広い湯船の中、入浴していた。

「お背中、流しましょうか」

顔を頭巾で隠した小柄なメイドが入ってくる。

「いいわ。ほっといて、あと三分したら来て」

お湯から出した右手をシッシッとスズナカはメイドに向けて払う。

メイドは深くお辞儀して、次の瞬間には霧のように溶け、スズナカの背後に回り込んで出現する。

服のまま湯船に漬かったメイドにスズナカは冷静な顔で

「……何人、私のコピーが居ると思ってんのよ。そもそも、私でさえ、自分が本当に私かすら分かんないくらい私のコピーを造り上げてきたのに本当に、これが私だという証拠は?」

メイドは静かに懐に隠し持っていた短刀を鞘から抜くと

「……ご心配なく、砦内の一人を残して、私の分身が全員同時に殺しますから」

スズナカは冷めた顔で

「はいはい。さっさとやってくれる?もうウンザリなのよ。このダサい能力も狂った世界も……クソみたいな仲間たちもゴボッ……」

背後から首を掻っ切られて、そのまま湯船に鮮血と共に顔を沈めた。

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