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再びオースタニアへ

巨大なイエロードラコンの顔は呆れた目つきで


「……長老の一人に認められているとは。

 長々とした無駄話よりも

 その二人を私に見せた方が効果があっただろうに」


「レインボードラゴンの唾液って

 そんな効果があるんですか!?」

ハーツが驚いて尋ねると、白い金属の塊を

指でいじっていたタナベが

「……あ、確かにそうだ。

 ビムス、唾液で調べたら全身に唾液をかけられた者は

 長老であるビムスに認められ

 ドラゴン族と共に戦う真の勇者に多いって……」

イエロードラゴンは黄金に輝く両目を見開いて


「ドラゴン族の端くれとして、貴殿らに従属しよう……」


と静かに呟いた。

グランディーヌが小声で

「いけそうだったから、仲間になるように説得した」

と二人に言うと、ヤマモトは顔をしかめ

タナベが慌てて

「上とか下とかじゃなくて!従属とかじゃなくて!

 平等な仲間になってください!」

イエロードラゴンは両眼を閉じて沈黙した。

「あっ、あれ……?」

グランディーヌが真面目な顔で

「了承した。もう仲間」

「う、うん……そうなんだけど

 僕らまだ、依頼を達成してないよね?」

グランディーヌは頷いて

「……その金属の塊で、もっと奥地の人がこない場所の

 温泉の源泉を調べてもらえる?」

「もしかして、掘り出して

 このイエレンさんを移動させる感じ?」

「うん。そこまでイエレンに連れて行ってもらって

 みんなで掘れば、そこで湯治ができる」

タナベは急いで調べだした。

ハーツが心配そうに小声で

「あの……さらなる労働が待ってるの?」

グランディーヌはニカッと笑って

ハーツの右肩をポンポンと叩くと

「ハーツちゃんは、もう充分仕事した。

 あとは私たちに任せて、ついてきて」

「そ、そうなの……」

ハーツは安堵した顔で、身体の力を抜いた。

 


同時刻、帝都郊外。



帝都を足早に脱出した俺たちは

西側の城門近くにジェシカとゴーマが準備していた

大柄な黒い馬が引く古めかしいが頑丈そうな荷車の上に

俺とブラウニーは乗っていた。

ジェシカは馬の背に乗り、ゴーマはすぐ横を歩いている。

再びオースタニア王国のある西へと向かっている。

まだ気絶したままのターシアも縄でグルグル巻きにされて

猿轡を噛ませて荷車の上に積まれている。

「……帝都はもういいのか?」

頭巾ですっぽりと顔を隠したブラウニーは

上機嫌で頷いて

「上首尾だ。発つ鳥跡を濁さずだね。

 あとはサキュエラや、ドゥミネーで十分務まる」

「……そうか」

俺は頭巾を被ってマスクをした頭で

周囲を見回す。

そろそろ夕方だ。西へと平原を伸びていく

広い街道には、かなりの数の人々や馬車などが行きかっている。

しばらく景色を見ていると

「……いつもの如く、質問をしない君たちに

 ちょっと必要な情報を伝達しておこうか」

ブラウニーは苦笑いをしながらそう言って

「……サンガルシアが消滅間際に帝都の上空から

 強力な封印魔法をばらまいたので、

 帝都全域は、魔法や魔技や、特殊な能力は

 一時的に使えなくなった」

黙って聞いていると

「つまり……追手が来るとすれば

 この辺りだ。封印魔法の効果範囲外になったからね」

ブラウニーがそう言った瞬間には

いつの間にか荷車に乗っていた

白髪を真ん中分けにして口ひげを生やした、丸眼鏡の

黒地に緑色の刺繍を施したローブ姿の老人が

ブラウニーの背後に回り込み、彼の首筋に

桃色に輝く刀を当てていた。

ジェシカはチラッと背後を振り返るが

気にせずに黒い馬を進ませだした。

ゴーマも慌てる様子はないので、俺も座ったまま

その光景を黙って見つめていると

刃に喉元を突き付けられたブラウニーは落ち着いた声で

「ドハーティー卿、御自らの御出陣とは痛み入る」

「……はっ、大悪魔がよう言うわ。

 弟子が世話になったな」

老人は苦み走った顔で殺気を発する

今にもブラウニーを殺しそうである。

「……スズナカに取り返しがつかないほど操られた高官たち以外は

 誰も殺していない。

 あなたのお弟子さんも

 そろそろ起きて、逆さの塔の最下層から

 帰ってくるころだ。良い修行になったろう?」

「……チッ。お前を今回も殺し損ねたか」

老人は発光する刀をブラウニーの首元から引いて

チンッと綺麗な音をさせながら、腰の鞘に納める。

「トウコウか。良い刀だね」

ブラウニーが振り向かずに微笑むと

「……この程度では、オクカワ・ユタカを殺すには力が足りぬ」

老人は、そう言いながら

サッと、進み続ける荷車から人波の中へと飛び降りていった。

「……何だったんだ?」

俺が尋ねると

ブラウニーは

「旧友への挨拶と言ったところだ。

 みなさん、すまなかったね。

 予定通り、西へと向かってくれ」

沈み始めた夕日を見上げる。

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