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三日後

巨漢のクライバーンは

部屋の壁にもたれかかり腕を組み

小柄なアヤノは、その近くに自ら椅子を引いて

そして静かに座った。

俺がベッドから出ようとすると

二人に椅子を向けたブラウニーが手で制して

「……まだ、動かない方が良い。

 お二人も、それでよいかな?」

クライバーンは黙って頷き、アヤノが

「ああ、これから死にゆく我々には

 礼儀なんてどうでもいい」

苦み走った目線を横にそらす。

ブラウニーが苦笑いしながら

「……我々黒魔術師としては、

 アンデッド化を拒否するお二人を生かして

 オクカワを毒殺したいんだがね」

アヤノは黒頭巾を取り、真っ黒なショートヘアと

整った東方系の顔立ちを晒して

哀しそうな瞳で

「我らが敬愛したパルムス王はもう居られない。

 あの……小娘に魔法によって半身を焼かれ

 半身を冷凍され、立ったまま瞬時に殺された」

そうだったのか……。

処刑されたとは聞いていたが

そんな死に方だったとは……。

ブラウニーが

「しかし、城内の戦闘のさなかで、

 玉座の間に突入したオクカワと出合い頭だったそうで。

 苦しまなかったのではないかな?

 そう喧伝されているだけで、実際は処刑ではなく

 名誉の戦死なのでは?」

アヤノは眼を逸らして

「……だとしても、パルムス王はもう

 戻られることはない」

クライバーンも黙って頷く。

ブラウニーは仕方なさそうに首を横に振り

「決意のほどは分かりました。

 ならば、我々もあなたたち二人を捨て駒にして

 ここにいるターズ氏を切り札として

 オクカワを攻略することにする」

アヤノは深く頷いて

「ああ、それでいい。我らは楽土で

 再びパルムス王にお仕えする。

 仇であるオクカワを確実に殺すために死ぬ」

ブラウニーは何度か頷いてから

「では、お二人とターズ氏には

 三人のそれぞれの能力の紹介と

 今回の作戦についての説明をするとしますか」

クライバーとアヤノはこちらを見て頷き

俺も、まったく迷いなく同意した。


三日後。


朝の日差しの入っている石造りの城内の一角で

「うっわ……なにこの、獣人娼館って……。

 この子たちのネコミミも尻尾も動いてるんだけど」

ヤマモトがタナベと共に

彼の持つ真っ白なスマホを覗き込んでいる。

「ここから、大体、百五十キロ東の

 ソワンベラ人獣国の風俗店だね。

 そこの光景が動画として出てるみたい」

興奮したヤマモトと対照的に

タナベはまったく冷静にそう告げた。

「行ってみねぇ?

 大体、国内の黒魔道師の館、襲撃し終わったし

 そろそろちょっとくらいサボってもいいっしょ」

「うーん……どうかなぁ。

 戦略的な観点からは

 僕らは、待機していた方がいいんじゃないかな」

ヤマモトはタナベの小柄な背中をバンバン叩いて

「そんなんだから、クラスのバカどもから

 隠キャとか言われんだよ!

 ガキの頃からいっつも、俺は言ってるだろ!?

 お前はマジで賢いし、すげぇ大人になるって!

 そんな小さく纏まんなよ!」

「リュウ……それとこれとは……」

「ほら、お前まだ童貞だろ!?

 せっかく異世界来たんだし!

 ネコミミの女たちを権力と金の力で好きなだけ抱きまくって

 大人の男になるぞ!」

いきなりヤマモトがタナベを抱え上げて

扉を開け、部屋から出ていこうとすると

黒髪を腰まで伸ばしている

セーラー服の上からマントを羽織った

不機嫌そうな少女が腕を組んで

通路に立ちふさがっていた。

大きなため息をわざと二人に聞こえるように吐くと

「リュウ、あんたさぁ……うちの高校のスポーツ特待生の中で

 特別バカだとは思ってたけど、本物のバカなの?」

ヤマモトはサッと、タナベを降ろすと

わざとらしく震えて見せて

「おお怖い……オクカワ委員長様に

 またバカ呼ばわりされてしまった。効いてませんけどー」

オクカワと言われた少女は

ヤマモトを無視して、その横で苦笑いしているタナベに

「で、あんたは反対したけど、抗えなかったわけね?

 全部、この風魔法で聞いてたわ」

右手を開いて上に向けると、風で出来た人型が出現して

オクカワの耳元にボソボソと何かを告げて消える。

少女は両肩を脱力させて

真剣に呆れた顔で、ヤマモトを見ると

「ああ、セフレがこっちの世界にこれなかったから

 バカの性欲がそろそろ溢れ出そうで危険だと……」

ヤマモトは真剣な顔で

「セフレって言うな。リオとは真剣に交際してたんだけどな」

オクカワは嫌そうに舌打ちして

「……そこらの捕らえた女じゃダメなの?

 美人が沢山、この城の留置所に居るけど」

ヤマモトは長身から哀れな目でオクカワを見下ろすと

「……嫌がる女をむりやり抱いて、何が楽しいんだよ。

 それなら金払って、その道のプロに抱かせてもらった方がいいだろ」

オクカワは心底呆れた顔でヤマモトを見上げた後に

横で苦笑いしているタナベに

「で、あんたはどうなの」

「……僕は、リュウのストレス解消に付き合ってやりたい。

 こいつ、こう見えて、結構、気使いだから……僕はこのスマホがあればいいから

 娼館の近くで待ってるよ……入らないし」

「いーや、お前も中まで連れていく。そろそろ女を知るべきだ」

「いいよ……性欲解消は動画で十分だ。

 これ、見たことも無いものが色々見られるんだ」

「あんたたち、女の私の前で……よくそういう会話するわ……」

「委員長は女だっけ?」

オクカワが首を横に振って、深くため息を吐くと

ヤマモトは嬉しそうに、タナベの肩を軽く叩いて

「じゃ、そういうことで。行くぞっ。休暇の旅だ!」

タナベの身体を抱えると、アッと言った顔をして

部屋の隅に立てかけられていた鞘に入った銀の大剣を素早く

背中に装着して、猛烈な速度で通路を駆け出ていった。

オクカワは仕方なさそうに

「まぁ、バカにも、休息は必要か。

 あーあ、お兄様どこに行ったんだろ……。

 私も、キツイことばかりで、そろそろ疲れたなぁ。

 お兄様、膝枕してよ……」

そう呟いて、後ろに手を組み、通路を歩いて行った。

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