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ニンゲンスレイヤー  作者: 弐屋 中二


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彼女の戯れ

数時間経ち、俺たちはようやく山中に入った。

狭い山道をゆっくりと歩いていく二人に黙ってついていくと数十メートル先に木造のしっかりした造りの山小屋が見えた。

小屋に向け、緩やかに坂道が続いている。

ずっと黙っていたサンガルシアが

「……悪趣味ですなぁ、なんたる悪趣味や。こんなとこに囚われとったんか」

と嫌そうな顔で横を歩くブラウニーを見た。

「……皮肉が効いていると言いたまえ。どこで聞いているか、分からないぞ」

そう言いながら彼は明らかに笑っている。

「何が、悪趣味なんだ?」

つい背後から尋ねてしまうとサンガルシアは振り向かず

「……あの小屋の中にあるものや。もう、俺には見えとるからウンザリしとる」

「……大悪魔の彼に、そう言わせるのだ。ターズは期待していて良いな」

ブラウニーが笑いながら振り返ってきて

「覚悟しておくことにする」

俺は一応、そう答える。

「いや、違うんや……覚悟せんといけんのは俺や。お前やない……」

サンガルシアは珍しくうな垂れた。


五分後には小屋の扉の前にサンガルシアが立ち

「……ターシア、居るんやろ?俺や、サンガルシアや」

「サンちゃん!?」

中から女の子の声が響き、そして、扉が内側から開いた。

真っ黒な肌をした、長い黒髪を何本も複雑に編み込んだ不思議な美しさの少女が出てきた。

「……おーう……」

サンガルシアは、しばらく気が動転した様子で少女を見下ろしそして、仕方なさそうに両腕を拡げる。

少女はピョンッと跳躍するとサンガルシアの大柄な体に抱き着いてきた。

「サンちゃん……どこ行ってたのぉ……」

サンガルシアから抱えあげられると少女は愛おしそうに頬を彼の顔に擦り付けだした。

サンガルシアは困った表情になり

「遠い、遠いとこや。ちょっと旅にな。なあ、ターシア……」

「なぁに、サンちゃん?」

「ここに、アナバル居るやろ?会わせてくれんか?」

「サンちゃん……私より、そっちが大事?」

「いや……そんなことはないんや。お前が常に一番やし、これからもそれは変わらん。でも、仕事なんや。ほら、俺の上司と部下もそこに居る。はよ済ませて、お前と過ごしたい」

「……しょうがないなぁ。あっちよ」

ターシアは小屋の開けられた扉の奥を指さす。


サンガルシアが小柄なターシアを片手で抱えたまま小屋の中へと入っていき

「お邪魔させてもらう」

と穏やかに言ったブラウニーに続き、俺もそのまま中へと入って行く。

生活に必要最低限のものしか置かれていない簡素な室内を通り過ぎ、サンガルシアたちと狭い寝室に入ると、ベッドの上には首までシーツをかけられた金属で出来た人形が寝かされていた。


人形の顔部分には、両目の代わりに黄色いガラス玉のようなものがはめ込まれていて

鼻は無いが、真っ白な唇の口はついている。ブラウニーが嬉しそうに

「居たな。そうか、ここが最後の関門か」

サンガルシアはターシアを抱えたまま無言でしばらく人形を見下ろすと

「……ターシアぁ、なぁ、お前、正気やろ?」

ドスの効いた声で尋ねた。少女はニコニコしながら

「うんっ!ファルナバル様から堕天使どもの管理を頼まれてるの!」

サンガルシアは殺気をまき散らしながら

「ターシアぁ……仲間売ったんはお前やな?」

「うん!だって、女神さまを裏切るなんて、ありえないでしょ?」

首を傾げたターシアに、サンガルシアは眼を細めて、本気の殺意を向けた。

ターシアはまったく気にしない様子で

「闘る?闘っちゃう?」

抱えられたまま、無邪気な笑みを向けて何とサンガルシアを煽りだした。

ブラウニーは微笑みながらその様子を見上げている。

サンガルシアはスッと殺意を引くと

「ええわ。なあ、ここにおられる上司のブラウニー様とついでに部下のターズにその機械人間預けてくれんか?」

「えーいいけどぉ……サンちゃん、ここで、私と堕天使どもを管理しよっ!それしてくれるならぁ、眼を瞑ってもいいかなぁ……」

サンガルシアは苦悶の表情で両目を閉じ、首を天井に向け、しばらく考えた後に悔しげな顔で

「……分かった。ええわ。よくわかった。そうしよか」

そう言いながらブラウニーを見つめる。彼は微笑みながら頷いた。


俺が動かない金属の人形を抱えて小屋を出ていく。

全身白い金属で覆われた人形は身長百六十センチほどでかなり重かったが問題なく背負えた。ブラウニーは見送りに出てきた二人に

「……ターシアさん、サンガルシアを頼むね」

「はいっ!大天使である私に任せてね!」

サンガルシアは黙って俯いた。

ブラウニーは継ぎはぎの顔で微笑みながら二人に背を向ける。

俺も彼について、小屋から遠ざかっていく。

背後で小屋の扉が閉まった音を聞いてようやく俺は

「何だったんだ?今のは」

ブラウニーは微笑みながら

「……最後の堕天使すら手中に収めようとする卑劣な策略だな。サンガルシアのことは心配しないでいい。彼は自分の頭で的確な判断ができる」

つまり、後で追いついてくると言いたいようだ。

「……よくわからないが、誰の策略なんだ?」

「……ふふふ。冗談だ。いつもの嫌がらせだよ。"彼女"の戯れさ。煉獄から来た子供たちの策略に自分の意思を絡めてきただけだ」

「そうか。深入りしないことにしよう。この人形は何なんだ?」

ブラウニーは涼し気に笑いながら

「マグリア帝国皇太子、アナバル・マグリアだ」

と言ってきた。

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