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ニンゲンスレイヤー  作者: 弐屋 中二


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国境付近の長城近く

クリスナーは城内の王族専用の大浴場脱衣所の外で真面目な顔をして、直立不動で一人警護をしている。

彼はハッと横を向き、廊下の向こうから、ボロボロの鎧を着たスベンがやってきたのを見ると間髪入れずに腰にさげていた鞘から切れ味の鋭そうな剣を抜いて構えた。

スベンは両手を上げながら苦笑いして

「降参じゃ、降参。わしにでも隙を見せぬのはさすがよ」

ゆっくりと近づいてくる。

クリスナーは自分の祖父が五メートルほど前まで近づくとようやく剣を鞘の中に入れた。

「東の国境での戦闘は、予定通り膠着状態に持ち込んだのでバラシーに任せてきた」

「爺ちゃん、脅かすなよ、偽物かと思ったろ」

「摂政代理からお借りしている黒い馬はやたらよく走るんじゃよ。半日かからず国境からここまでたどり着く」

そう言ったスベンはニヤリする。クリスナーは頷いて

「……ああ、何かあるな。黒魔術の力じゃない。明らかにもっと大きな何かに俺たちは巻き込まれてる」

クリスナーが顎に手を当て目を細めると、スベンはまた笑い

「じゃがな。亡国を味わった老将にはもう時間がない。どんな怪しげな力でも使わねばもはや、我が国は守れぬ」

「……分かるよ、爺ちゃん。その気持ち、俺も同じだ。いつか、我が国を無茶苦茶にしたあいつらを皆殺しにしたい……」

スベンはポンポンとクリスナーの肩を叩くと

「泣き虫バラシーも、ようやく一端の副将に育ってきた。あいつの生き残ろうとする力を戦術に注ぎ込み始めたよ。クリスナーよ。もし、わしに何かあったら後は頼むな」

「爺ちゃん!縁起でもないこと言うなよ!スベン家歴代最高の名将が死んだら俺たちはどうしたらいいんだよ!」

「……もう、目覚めたお前がおる。少し、疲れたわ」

スベンはそう言いながら、灯火に照らされた廊下の向こうへと静かに去って行った。

「爺ちゃん、カッコつけすぎだろ……まだ死なねぇって」

クリスナーは不満げに呟く。



同時刻、オースタニアと帝国の国境付近の長城近く



オースタニア軍の陣地内の大きなテントの中で屈強な武人たちに囲まれている、白地にオースタニアの国旗が刺繍されたローブ姿の長身女性が、使い込まれた武骨なテーブルに広げられた駒が各所に置かれた地図を見下ろし、頭を抱えていた。

彼女はクシャクシャの天然パーマの茶髪を押さえつけながら

「あー……えっと……うーううー……」

などと言いながら、いきなり鼻水が出る。

サッと横に控えていた口髭の中年武人がハンカチを差し出すと、それで鼻下を拭い

「くうぅぅ……分からん……こっちから、もっと膠着状態にする攻め手が分からん……」

そして涙目で、周りの屈強な武人たちを見回すが全員、さり気なく目を合わないように顔を伏せた。

「おまえらぁ……うぅ……」

恨めし気に女性はそう言って

「あっ……そうか……スベン様の言っていた意味が分かったぞ……。クライバーンジュニア!!二千の弓兵を率いて、こっから七キロ北の長城監視所を夜襲して火矢で、できるだけ派手に焼き討ちしろ!たぶん、衛兵は七百も居ないだろうから軽装でな!焼き討ちしたら、すぐに近くのマガハン砦へと退却だ!入ったら絶対に出るな!」

「ははっ」

感じの良い笑みを浮かべた革鎧を着た背の低い男性武人が、屈強な武人たちをかきわけて前へと出てきて、軽く頭を下げると出て行った。

「マルハナーン!メボラと共に一時間後に火薬部隊を連れて、ここから南四キロの帝国軍遊撃部隊の陣地に夜襲をかけろ!お前らも軽装でいって、派手に襲い掛かり、陣地を適当に焼いたら、大きく迂回して、背後からこっちに戻って来い!」

坊主の頭に傷のある屈強な老人と、頬に深い火傷痕の老獪そうな中年女性が頷くと、テントから出ていった。

天然パーマの女性は頭をくしゃくしゃにしながら涙目でぐるっと辺りを見回すと

「並みの帝国将なら、この釣り出しに絶対に引っかからんが相手はあのアラナバル大佐だ!この本陣の兵力が少ないとみて、即座に長城内の門を開き主力部隊で、逆襲を仕掛けてくるだろう!陣地の前面の柵内に重装兵を並べつつ、側面から奇襲を受けないために偵察を五倍にして、陣地左右側面に放て。後方は、帝国魔法部隊がなぜか壊滅したので、偵察は必要ない!さらにオースタニア軍魔法兵団を重装兵の背後に並べ我らの陣地前面を、やつらの墓場にしてやれ!!」

地鳴りのような歓声を武人たちは上げほぼ全員、一斉に外へと出ていった。

女性はまた頭を抱えてテーブルの地図を並べ

駒を置き換えながら、小さな声で

「……というところまで、賢いアラナバルは軽く読んでくるだろうから恐らく、逆襲してくる帝国兵の数は少ないはずだ。ただし、陣地内の士気を下げないために襲撃自体はやらざるを得ない。うー……その辺のバランス感覚を鑑みると、あいつなら……多分全兵力の一割にも満たない二千程度だろうな……。やつのこれまでの経歴的に、絶対に兵を大きく損ねるような迂闊なことはしない……帝国で大きな兵団の統括をするということは、政治的な読みも必要だからだ。ただ、こちらに帝国軍を壊滅させかねない策があるということを見せつけること自体が、牽制になり、膠着状態を深めさせる。そうですよね?スベン様……」

などとまた一人でブツブツと呟きだした。

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